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社会的価値実現のバリューチェーン

By Hiroki Kamata | 2007年 9月 7日

マイケル・ポーター「戦略と社会」を読む

サプライ・チェーン理論のマイケル・ポーターが、マーク・クレイマーと共著で「戦略と社会:競争優位と企業の社会的責任(CSR)」という論文をハーヴァード・ビジネス・レビュー(2006年12月号)に掲載している。日本語訳はまだだが、原文も無料で入手できた。バリューチェーンの社会的インパクト(環境価値など)をマッピングしつつ、企業戦略が直接にCSRを実現可能であることを論じている。

こ の論文は欧米でたびたび引用されている重要論文であったが、筆者は今日、友人に教えられてはじめて存在を知った。困ったことに、「ポーター賞」まであるこ の国では、Googleで検索してもきちんとした紹介がされていない。内容の解説は別の機会に譲るとして、ざっと読んだ感想を述べておきたい。

マネジメントが実現すべき「価値」は単純なものではないことは、かねて主張してきたことである。金銭評 価での「企業価値」でさえ、5W1Hのコンテクストで考えるとけっして単純ではないが、企業活動の社会的責任と評価となるとさらに複雑である。しかし、環 境(温暖化)などの具体的評価が数値化され、企業間で優劣が判定されるとなると、それは競争優位へと転化され、金銭的な価値にも換算される。社会的価値が 「市場化」されるには、社会的な合意のための時間が必要であるが、企業としてはそれを加速化させることができる。
価値を実現するには、サプライチェーンでの付加価値を検証すること、コアコンピタンスの保持と全体としての「比較優位」のマネジメントが必要である ことは、サプライチェーン理論が説く通りである。ビジネスプロセス管理や、サプライチェーン全体を通じた全体最適の実現の方法論も同様である。IT環境も 同じように適用できるし、またしなければ扱いきれない。問題は、「価値」に関する社会的あるいは世界的議論をリードする能力、その中で自社の比較優位、技 術的優位を価値へと転化できる能力において、日本企業が劣っていることである。

例えば、大気汚染対策技術では20年前から世界をリードしながら、「排出権取引」を通じて価値を世界的に実現することには後手を踏んだ。「排出権」 という一軒奇妙な考えは、大気保全と産業との調和を、市場を通じて実現していこうというもので、Best Available Control Technology (BACT)というコンセプトで、技術進化を促す仕組みも取り入れられていた。20年以上前の米国の話である。京都議定書以後に発展したが、「排出権取 引」は、米国のシステム工学(社会工学)の成果といえるものだと思う。

リサイクルやCO2など、環境関係は分かりやすい例である。では、教育や雇用、福祉、地域活性化といった領域ではどうだろうか。社会的価値の実現に 直接責任を持つ行政府は、政策立案能力が著しく低下させている。政策は議論を喚起しつつ、社会的合意を形成していくためには、モデルに基づいたプログラム (代替戦略)の立案とシミュレーションが不可欠である。テクノロジーは進化しているのに、工学的な問題提起が見えない。手法は旧態依然としており、メディ アがそれに輪をかけて調査能力を低下させているから、政治の場では冷静な議論ができない。

企業が社会的価値を提起し、競争優位の源泉としていくためには、経営に哲学と工学が必要になる。それは簡単ではない。しかし、中国やインドなどの企 業とコストだけで競争するほうがよほどリスキーであり、企業が生き残っても、日本は衰退に向かっていく可能性もある。社会的価値とそれを実現する市場化メ カニズム、そこで戦略的に重要となる技術などについて、議論し、日本としての戦略的な「ビジネスモデル」を構築することも必要だと思われる。 2007/09/07

Topics: 書評(本・新聞・ブログ) | No Comments »

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