カテゴリー

最近の投稿

ブログロール

不況下の成長戦略が歴史を創る

By Hiroki Kamata | 2008年 11月 15日

大恐慌(Panic)は終息に向かい、大不況(Depression)が始まっている。つまり、わけのわからない恐怖から、いつ果てるともない脱力感と機能低下に移行したということだ。万能感が微塵に砕かれると、一転して無力感、無気力に陥るか、逆に凶暴化し攻撃的になるか…両極の危険があることは、心理学と歴史、それに最近の事件が教えるところだ。他方で、この時期は(「平時」には不可能だった)社会の大きな転換が起きて次代のリーダーを生み出すことが知られている。

CIO Insightのエドワード・コーンのコラム「不安の時代のテクノロジー」(11/10/2008)は、1930年代の大不況期に成長戦略を続け、ついに飛躍のきっかけを掴んだIBMとAT&Tの例を紹介している。IBMの伝説的創業者、トーマス・ワトソン・シニアは、1929-32年に生産能力を約3分の1も拡大させ、計算機の在庫を積み上げた。どん底にあった1932年には、年間売上の6%を研究所に投資する決定をしたという*。会社は危機に瀕したが、1935年にルーズヴェルト大統領(FDR)が社会保障プログラムに着手すると、IBMは一大産業の独占的供給者となった。

政府の大規模な政策イニシアティブが、新しい産業・技術の発展を促したことは、電話、電力、高速道路などの社会基盤整備と同様だが、情報技術の場合、ニーズは道路と自動車の関係のように特異的ではない。ワトソン・シニアの非凡さは、大量情報処理の膨大なニーズが遠からず生まれることを(誰でも気が付き、動く好況期ではなく)恐慌期に確信し、賭けたことであった。FDRのニューディールがワトソンの賭けを成功させたとも言えるが、筆者は、逆にIBMのマシンが社会保障という画期的な政策に実効性をもたらした面もあると考えている。計算機がサポートしない限り、社会保障は莫大なロスを生み出すからである。

公共政策、企業戦略は、大不況期ほど創造的・未来志向的であるべきだ。

* Kevin Maney, The Maverick and His Machine: Thomas Watson Sr. and the Making of IBM, 2003, Wiley

Topics: エンジニアリング, テクノロジーとビジネス | 1 Comment »

採点をお願いします。


One Response to “不況下の成長戦略が歴史を創る”

  1. モビリティ・インフラとビッグスリーの再生 : OBJECT REPORT さんより:
    2008年 11月 24日 at 5:50 PM

    [...] では、モビリティ・インフラの大部分を支えるITはどうか。最も戦略的に動いているのはIBMであり、組込み・エンジニアリング系に強いツールベンダー、スウェーデンのテレロジック社の買収は、その布石であると見られている。上述した自動車産業の復興は、大規模なソフトウェア開発への需要を生み、モデル駆動工学の大規模な投入を伴うことになるからだ。これは自動車本体はもちろん、生産ラインでのロボットから生産管理などを含んだものとなる。また「グリーン・テクノロジー」は、多種多様な製品や設備に組み込まれるセンサーと制御ソフトウェアの新規需要を生むことになるが、テレロジックはこの分野でも数多くのユーザーを有している。トーマス・ワトソン・シニアは、1930年代の大不況期にも積極的な投資を行い、ルーズヴェルトのニューディールが生みだした計算機ニーズを市場とすることができた(筆者コラム参照)。同じことを今日のIBMも考えているとみるのが自然だろう。 [...]

コメントはこちらへ