バーナード・マドフとポンジー・スキーム
By Hiroki Kamata | 2008年 12月 13日
日本昔話で村人を騙す狐狸のごとき仕業だが、風貌はなかなか魅力的な老紳士。ナスダック元会長にして大手ヘッジファンド、バーナード・マドフ証券の会長(70)である。逮捕されて同日に保釈。同社のホームページは、日本時間13日の午後までは閲覧可能で、「革新的テクノロジーによる鮮やかな運用とサービス」を謳ったホームページが見られたが、18時には、NY南地区連邦地裁「判事ルイス・L・スタントン閣下の指名した管財人」によって全資産が管理下にある旨が告げられるだけだった(命令書はこちら)。
日本では「ねずみ講」と訳されているが、米国では「ポンジー」の容疑となっている。これは分類的に異なる。ねずみ講は会員の勧誘が必須だが、ポンジーは配当実績でそうした面倒を回避する。マルチは民衆的だが、ポンジーはスマートだ。マドフ氏は、別に「講」を組織していたわけではないし、無限連鎖を唱道していたわけでもない。ポンジーは、1世紀ほど前のイタリア生まれの米国の詐欺師、チャールス・A・ポンジーの創始によるもので、英和辞書にも載っている。ポンジースキームについてはWikiに詳しいが、残念ながら16ヵ国語の中になぜか日本語はない。このスキームは、高配当の取引(オリジナル版は「国際郵便返信用クーポン」の裁定取引)を餌に出資金を集め、新規の投資家からの資金を、古い投資家の収益に回す、というものだ。
最近の日本の事例では、波 和二会長(75)の「エル・アンド・ジー」の「円天」、「クレスベール証券」の「プリンストン債」がこれに近い。ちなみに、1,000億円を集めた波氏は、強制捜査、会社の倒産にもかかわらず、まだ娑婆におり、ブログで健筆をふるっておられる。「円天」は世界不況から人類を救う、そうで、米国政府にも円天の採用を提唱している。金融工学として展開しているところが面白い。ねずみ講と合法的な出資事業との違いは、60人の捜査官をいまなお悩ませているほどで、常識では裁けないところが難しい。
マドフ氏に戻ると、詐欺の立証は結構難しいと思う。とびきり優秀な弁護士を雇えるというだけでなく、マドフ証券のビジネスと他のウォール街の紳士たちのビジネス(もしそれが合法としてだが)との違いを立証しなけばならない。1980年代のジャンク・ボンドはその後ハイ・イールド・ボンドと名前が変わって爆発的に拡大し、金融工学はリスクを魅力に粉飾して市場を拡大し続けた。「ババ抜き」はITによって高速化し、マネー経済は実体経済の数十年分に膨らんだ。すべて政府とSECの承認のもとに行われたことだ。マドフ氏は、「先端的金融工学」によるTime Slice3という商品を売って人気だった。
金融は、経済活動における「時間」をカネで埋めるビジネスだが、実際の経済活動の数十年分を「商品」として取引するとなると、もはや詐欺と変わるところがない。CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が登場するに及んで、完全にその領域に入ったと見るべきだろう。それにしても、「金融」がらみの損失に比べて、ビッグスリーの損失など、なんと他愛もない額だろう。中小企業の負債総額など何でもないほどだ。
Topics: HOT:マドフ金融詐欺事件, 近時片々(時論) | 1 Comment »
2009年 2月 19日 at 2:52 AM
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