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マドフ事件を読む:ウォール街史上最大の詐欺事件

By Hiroki Kamata | 2008年 12月 14日

マドフ事件について、日本のマスコミの扱いは小さい。しかしこれはけっして「ただの詐欺事件」などではない。マドフ氏は詐欺師、つまり(失礼ながら)円天の波氏のように、刑務所と往復しながら独自の手法と術と技を編み出した、その筋のたたき上げではない。米国金融業界の重鎮であり、篤志家として誰知らぬ者はない。最初から「合法スレスレ」を狙ったものではなく、合法ビジネスとして出発し、SECの監査もパスしていたはずだ。

つい半年前までは、8-12%の配当を受け取って満足していた顧客たちは、いずれも錚々たる企業、ファンド、大富豪であり、市井のお年寄りや小金持ちではない。「被害者リスト」が明らかになりつつあるが(例えば WSJ, 12/13の記事)、日本から野村HDも名を連ねている。額も、数百~数千億ドルの単位である。詐欺であるとすれば、集めた資金のなかで、配当で還元された額の残余はどこかにプールされているはずで、それを突き止める必要もあるだろう。しかし、マドフ氏は5兆円あまりが「損失」になっているという。彼の顧客のように、別のヘッジファンドに流していた可能性もある。

サブプライム・ローンの破綻に始まる金融収縮で、すべてのヘッジファンドが、投資家からの資金引き揚げで窮している現状で、その一つがマドフ氏の会社だった、というところまでは間違いはない。問題は、

  1. 無謀なビジネスで巨額の損失を出したのか(キャリアから見ると考えにくい)、
  2. バブル当時では常識の範囲内だったビジネスが破綻したのか(ありそうだが犯罪ではない)、
  3. 最初から資金の一部をせっせとプールしていたか(れっきとした詐欺)

かということになるだろう。当局はすでに起訴に足ると信じる証拠(たぶん内部証言)は掴んでいたはずだ。本人はすでに保釈されているので、日本のように、ふん縛ってから「本当のことを言え!」とか「カツ丼食うか」とかで自供に導くわけにはいかない。

ではマドフ氏が「犯行」を思い立ったのはいつで、動機は何か。すでに十分の富と名声を得ていた名士にとって桁違いの金を何に使おうというのか。民主党支持者の彼にとって「政治=大統領選」は考えられないではないが、まず考えにくい。考えやすいのは、2)で始めたビジネスが、途中から失敗が確実であると認識していたにもかかわらず、なお「破綻」まで集め続けた、というものだろう。ただし、これだと他の多くの金融サービスと区別するのは難しいし、「詐欺」としてはお粗末なものとなる。もしかすると、当局はファンドの規制に踏み込む意図があって、クロに近いグレーのケースを立件したのだろうか。それともマドフ氏との司法取引によって、さらにウォール街の粛清に向かう糸でもあるのだろうか。

個人的には、今後の規制のほうに関心がある。これまでの金融は、実体経済のサポートという意味を希薄化し、むしろショートカットして「カネがカネを生む」方向に暴走していった。それにより、実体経済(人々の生活)に前例をみない打撃を与えた。ITに関る者としては、ITが制度的詐欺の道具に使われたことが許せない。「フィクションによる金融景気」はITにも恩恵をもたらしたこともあるだろうが、それ以上にマイナスのほうが大きいと思うからだ。これについては改めて考えたい。(12/14/2008)

* 上述したウォースストリート・ジャーナル紙の記事には、「ポンジーからマドフまで」11人の金融詐欺事件を紹介した、囲み的記事が載っていて面白い。1920年のポンジー氏の次は、いきなり1985年のバリー・ミンコウになり、以下比較的最近のケースが多い。21世紀初頭を彩る現象だったということなのだろうか。なお、インサイダー取引で逮捕・投獄された「ジャンクボンドの帝王」マイク・ミルケンやエンロンは含まれていない。

Topics: HOT:マドフ金融詐欺事件, 近時片々(時論) | 2 Comments »

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2 Responses to “マドフ事件を読む:ウォール街史上最大の詐欺事件”

  1. woo さんより:
    2008年 12月 15日 at 3:56 PM

    金融工学は詐欺師が喜んで使ったものなのですね。
    経済学とノーベル賞も詐欺に使われたことになります。昨日までの合法が今日から違法になるのは、談合などもそうですね。

  2. admin さんより:
    2008年 12月 16日 at 2:01 PM

    コメントありがとうございます。金融工学、つまり金融サービスを対象としたエンジニアリングじたいは必要なものですが、誰が何のために使うか、「金融」を何と考えるか大いにが問題で、ヘッジで金儲けということまで政策的に許容してしまったためだと思います。実体といくらかけ離れても「数字」さえあれば投資の対象となるということから、CDSという究極の(合法的)ポンジー・スキームが爆発的に膨張しました。単純に考えればあり得ないことを、ITだの偏微分方程式など(俗人には理解不能な)仕掛けを拵えるのに「金融工学」の詐欺的利用法があったということでしょう。

    知人の数学的解説によれば、金融のクラッシュはカタストロフィ理論(不連続の質的変動)で説明できるそうで、ヘッジのかけ過ぎは、むしろ共振して急速な崩壊をもたらすそうです。「ITバブル」も、ほとんどITとは無関係な人々によってつくられました。批判力を持った非専門家と、テクノロジーの限界を知っている専門家が、議論によって知識を共有し、詐欺師を封じ込めるしかないと思います。

    「談合」は、昨日までは小さな世界の生態的均衡を守る方法として役所が認め、利用していたもので、日本的制度として完全に定着していたのに、役所が一方的に「犯罪」を宣告してしまいました。均衡を守るための「犯罪(実際は慣行)」と均衡を変えていった「犯罪」と、方向は逆ですが、国家権力が方向転換をする時には、「犯罪」をつくるという点で共通していると思います。

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