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市場経済を再設計する (1):システムに善も悪もない

By Hiroki Kamata | 2009年 1月 12日

「市場経済そのものが悪いのではない。市場経済はいまだに最善のシステムだが、金融には問題があった。」(ポール・クルーグマン)

読売新聞のインタビュー(01/04)でのクルーグマンの政策的論点のほとんどに賛成だが、これだけはいただけない。システムに善も悪もなく、まして最善も最悪もないと思う。コンピュータシステムに例えれば、市場経済は一種の超分散のオープンアーキテクチャであり、無数のOSやドライバ、基幹的・末梢的アプリケーションがその上で動いている。インターネットと同様、けしからぬ人間たちによって機能不全となることはよくあることだ。現在、金融に関しては機能停止状態で、自給自足に近くなり、そのために経済活動のパフォーマンスは極端に落ちている。

おカネで買えるものは…

システムを現実と切り離して論ずることは、科学的ではない。そもそも今日の金融問題は「市場経済が最善」であるという思い込みから発しており、システムを通じて何を達成するかという価値的な観点、そしていかなる制御条件において最適化されるかという機能的な観点がいい加減に扱われてきたからこそ発生を防げなかったわけだ。青木昌彦は次のように書いている。

「量から質へと競争の焦点が移るに従い、同質の数理モデルを用いるが故に同じような間違いに突き進んでいく危険を孕んだ金融手法の限界も明らかになった。金融市場は『多様な可能性』に関する『多様な評価』を集約するという情報機能を担う場に向けて進化しなければならない」(1月5日付日経新聞「経済教室」)

もう少し早く言って欲しかった気もするが、システムと価値を混同するとロクなことにならないということだ。

市場は古代から存在するが、「市場経済」つまり農耕や労働を含む人間活動のほとんどが商品化されるようになったのは、近現代のことである。これはかなり危うい状態だ。「おカネで買えるものは…」の範囲をどんどん拡大させていくと、最後は「良心」「公共性」までいってしまうからだ。実際、初期資本主義では労働者の大半は悲惨な状態にあった。改善されたのは、世界大戦と社会主義革命、植民地独立、政治的民主主義などの政治的・社会的事件によって「市場経済」の存立条件が変わり、社会保障と大衆消費社会が成長を実現するようになったからだ。市場が勝手に進化していれば、いつまでも野蛮状態を抜け出せなかったろう。いや、昨年の投機による食糧危機では、人を餓死させても儲けたいという野蛮が見られた。

社会は「良かれ悪しかれ」市場の機能を最適化する

市場経済の信奉者たちは、「社会という複雑なシステムを計画的にコントロールすることは不可能」であると主張する。たしかにそうだ。だが市場に任せれば資源配分が最適化され、創造性が引き出されると考えるのも事実に反しているし、素朴な点では計画経済信奉者と同じレベルにある。「社会という複雑なシステム」は、まず市場の機能を既存の権力関係に応じて最適化しようとするからだ。日本も中国もロシアもブラジルもイスラム圏も、市場の構造と成長パターンは社会の権力関係を反映している。

透明でない社会の市場は透明ではないし、それどころか、かなり黒い。とくに金融はそういう傾向が強い。規制がなければないで、あればあったで「社会」は競争をコントロールする。問題は、だから市場のデザインとオペレーションの透明性と最適化を「情報機能」を通じてどの程度実現できるかにかかっている。

社会主義計画経済は停滞をもたらしたが、少なくとも雇用と教育、医療は保証した。これが偉大なこととして評価される時代が再びこようとしている。グローバル化が人を生かさずに殺すならば、人はそれを拒否できるし、するだろう。グローバリゼーション信者は、これが必然だと思い込んでいるが、必然でも何でもない。世界には「最貧国」と呼ばれる国々があり、1日1ドル以下で生活している人口は相当に多い。市場経済のもとであれば、とうに死滅しているだろう。彼らは地代のない土地に住み、自給自足、相互扶助、物々交換など、人類の伝統的な経済活動によって生きている。だから1ドルで死なないのだ。これは、いま市場経済で収入を得られないでいる人々を勇気づける事実だ。

ただ、市場経済を見限るのはまだ早い。市場を正しい意味で「社会」化することは可能だし、そのためのテクノロジーは存在する。官僚化を防げない計画経済、詐欺師を防げない「見えざる手」経済の中間に、よりましな経済を構想することが経済学者、エコノミスト、政策担当者などに問われている。キーワードは「情報機能」だが、まず市場経済に対する幻想や「見えざる手」信仰を払拭しておく必要があるだろう。  (01/12/2009)

Topics: 政治・経済・ビジネス | No Comments »

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