日本的妖怪エコシステムとしての自民党
By Hiroki Kamata | 2009年 2月 14日
「日本」という国が、明確な統治システムも信仰体系も持たず、2000年近く存在してこれたのは、流れに逆らわず、流れを制するという「人生哲学」が社会に共有されてきたからのような気がする。強いものは滅びるが、弱いものは滅びない、という信念と言ってもいい。強い力にはネガティブ・フィードバックが働く。今、われわれが目にしているものは、その日本的な「無力」という力だろう。
「天使はゾンビを救うか?」
Timesのアジア担当編集長リチャード・ロイド・パリーは、「天使はゾンビを救うか?」という刺激的な記事を書き、麻生太郎首相と自民党が、低支持率を乗り越えて生き残る可能性について論じている。東京の常識では、麻生氏はレームダックどころかゾンビ(undead)であり、官邸の鏡はその姿を映さない、とさえ言われていると紹介した上で、「とはいえ、依然として麻生氏には、9月までは選挙をしなくてもよいという現実が残る。7ヵ月といえばだいぶ先で、その間何が起きても不思議ではない」として麻生・自民党が生き残る3つの可能性を検討している。自民党は1993年以降も、常識に反して生き残ってきたし、欧米人の考えるようなふつうの政党ではない、ということに注目したのは鋭い。
3つの可能性とは、1) ロシア/北朝鮮関係での成果によってヒーローになる、2) 北朝鮮の核・ミサイル危機の演出によって「タフなリーダー」となる、3) 森→小泉の転換のような「救いの天使」の登場、である。先の2つ、つまり麻生氏自身がヒーローになる可能性は、ほとんどないとされる。彼によれば、多少とも可能性が大きいのは3つ目。小泉元首相がメディアの支援を受けて新しいアイコン化に成功したように、ほとんど未知の人物が…という可能性である。何よりも、日本人自身が、本心ではその遺伝子と分かちがたく結びついている自民党の存続を望み、できれば投票したいと考えているからだ。わずかばかりの知性と鋭敏さ、能力を持った指導者を得れば、このシステムは存続可能である。小泉はもういない。しかし「もう一人の天使が羽づくろいをして待ち受けてはいないだろうか?」
利権の源を売れば、利権は無くなるが…
パリー氏の見るように、自民党は政党というより日本社会のエコシステムの一部であり、リーダーへの支持とは無関係に、存続へのイナーシャは非常に強い。「小泉改革」は、しかし米国金融資本と連携し、自民党がその一部であったエコシステムを大いに傷めた。「郵政」の管理する350兆円と巨大な保有不動産を「民営化」するという一大プロジェクトの実体は、「かんぽの宿払下げ事件」などを機に明るみに出つつある(と信じたい)が、エコシステムで成り立っていた無数の小さい「利権」を取り上げて再分配し、国際金融資本に委ねようというものだった。
これは1970年代から一貫した米国の国策で、AIGとシティバンク、ゴールドマンサックスなどを先頭に根気強く浸透を図ってきた。すでにキヤノンやオリックスは、なかば外国企業であり、三井住友銀行も4割近くは「グローバル化」している。さて、民営化によって長年の懸案が実現しそうになった矢先に、AIGは事実上倒産し、シティやメリルも重体、ゴールドマンも入院という事態になった。金融工学を売り物に5兆円をどこかに隠した詐欺師も捕まった。霞が関と金融街を威圧してきた大手町のAIGビルも売りに出た。もし350兆円が、民営会社や日本の金融機関を経由して彼らに委ねられていたら、今頃はCDSの紙屑(電子データ?)に化けていただろう。日本はまだついている!
「郵政4分社化」に仕掛けられている資産処分のスキームは、見直しが必至となった。非効率と利権の構造を断つとされた民営化そのものが巨大な利権だったこと、預金や簡保は安全資産として管理すべきことが認識されるようになった。「宮廷クーデター」は、したがって「古い自民党」への回帰であるが、それが国民への配分を増やすならば、拒否反応はあまりないだろう。オバマ政権の対日政策も、ウォール街の「利権」を前面に対応してきた前政権とは大きく異なったものとなる(昔日のウォール街はもはや存在しない)。伝統的な自民党への回帰を望むのは、むしろアメリカかもしれないのだ。
「ブリガドーン現象」としての郵政民営化
権力が動く時に「利」が生まれ、利権が生ずる。監視を怠れば白蟻の巣になるし、それもある程度は避けられない。「悪質リフォーム屋」は、それを見せて嫌悪の感情を催させ、「そんなものは民営化したほうがいい」と言わせる。そうすれば彼らのいいようにできる。それも「赤字タレ流し」の「不良物件」だから格安で。彼らは白蟻のようなささやかな生き物ではなく、建物も土地も根こそぎ、堂々と「私物化」しようというものだ。公有であれば、議会で使い道を決めることもできるが、売ってしまえば何も残らない。
水木しげる先生の「墓場鬼太郎」や、のちの「鬼太郎」シリーズで使われたプロットに、「ブリガドーン現象」というのがある。スコットランド民話にある魔法の村で、100年に一度出現するという「ブリガドーン」に由来すると思われるが、温度や湿度などの気候条件がある特異な状態になると「妖気」が霧となって発生して世界の妖怪が(水木先生の住む調布市に)終結し、日本の妖怪を使って日本を支配しようとする。もちろん、ねずみ男などは西洋妖怪の手先になる。最終的には鬼太郎(よりも目玉の親父)の活躍で撃退に成功し、いつもの日常が回復する、といった筋だ。
どうも「小泉改革と郵政民営化」というドラマは、「ブリガドーン現象」だったようだ。いまや妖気は晴れつつある。結局、われわれは日本的利権、日本の妖怪と根気強く付き合っていくほかはない。安値で家を失うよりは、根気強く白蟻対策を続けたほうがましだ。それに、日本的なものはだいたい大人しく、人間とも長くやってきた実績がある。 (02/13/2009)
Can an Angel save a Zombie?, by Richard Lloyd Parry, Times Online, 2/11/2009
Topics: 政治・経済・ビジネス | No Comments »