テレビはWebに呑み込まれるのか?:TV用インターネット・チップの登場
By Hiroki Kamata | 2009年 2月 17日
社会公認の教義では「消費者は王様」ということになっているので、メーカーの望まないことも、この王様の名を借りて表現される。「消費者は低価格よりも多機能・高性能の製品を望んでおられる」というのは、自分たちが価格競争をやりたくないという意味だったことは、5万円以下のPCが登場して明らかになった。では「消費者はテレビでインターネットなど使いたくないと仰せられている」というのはどうだろう。
テレビはインターネットから、敬して遠ざかってきた
「消費者は、TVでインターネットを使おうとは望んではいない、というのがソニーのスタンスです。弊社としては現在のところ、インターネットビデオや(YouTubeなどの)ウィジェットを導入する以外の対応は考えておりません。」 (ソニーの広報、グレッグ・ベローニ氏のコメント、NYTimes の2月15日付記事*より)
インターネットが登場してまもなく、TVとの融合が話題となり、限定的なインターネット・アクセスを取り入れた機種が登場し、やがて消えていった。不思議なことに、Webのグラフィックやサービスが貧弱な時に、ずいぶん試行的製品が出たのに、今日のようにビデオやオーディオが充実し、専用チップが開発され、ブロードバンドも普及してインターネット上でさまざまな放送的プログラムが登場してきた現在、TVメーカーは逆に引いている。これは、受像機に限らず、放送においても同じで、つい最近まで万能感に酔っていた業界は、まだインターネットの使い方を決めかねているようだ(とくに日本)。
NYTimes のマット・リッチテル記者は、「どんな融合か? ネットに嫌々近づくTV」という記事で、携帯電話はもちろん、タクシーやエレベーター、冷蔵庫のドアにまでインターネット・ブラウザが浸透してきた時代に、伝統的に最も大きいスクリーンを持つTVがまだなのはなぜか、いつどのように入ってくるかについて取材、考察している。以下は、同記事による。
融合か消滅か:家電メーカーの選択
アナリストによれば、消費者はカウチでインターネットを使わないと断定するメーカーには、別の事情があるという。やりたくないのだ。
- TVセットの利益率は低いので、100ドルほどのインターネット機能でも障害となる。
- TVをインターネットに開放すればウィルスの脅威に晒される。PCが突然死んでしまっても驚かない消費者も、スーパーボウル中継の最中にそれが起きたらどうなるか。インテルの Digital Home Group のエリック・キムSVPも、ことTVに関する限り、消費者のクラッシュに対する許容度は非常に低い、と考えている。同社の Media Processor CE 3100 はフル検索が可能だが、メーカーの採用はまだ少ないという。サムスンの最新モデルはYahoo提供の一部情報のみ。シャープやソニーも、NBCなど一部の契約ソースにアクセスできるウィジェットの提供にとどまっている。
- 家電メーカーは、インテルがTV用チップ市場を独占するのを好まない。しかし、それ以外のチップメーカーも開発を加速し、またケーブルTV会社が採用するセットトップボックスのメーカーは、サーバ経由でより安全なインターネット・ソリューションを提供できることから、家電メーカーもあまり時間はない。
- 新しい競争相手が登場する可能性。たとえば、インテルの初代最高マーケティング責任者などを務め、iPod や3Dビデオゲームのチップの開発にも携わったゴードン・キャンベル氏(64)は、TVのためのブラウザ専用チップ (browser-centric chip)に巨大な可能性を認めている。彼の会社 Personal Web Systems は、今春150ドルで最初の製品となるTV用アダプタを発売する(メーカー渡し価格は100ドルを予想)。
キャンベル氏は、TVメーカーの発言を「たわごと(hogwash)」と切って捨てる。「新しい世代は後ろ手に縛られるのを嫌がる。PCと同じことをやりたいと考えるし、ウィジェットではそれができない」。アナリストは専用チップメーカーは、TVメーカーの協力を必要とするとみている。キャンベル氏は、その必要を認めながらも、結局TVメーカーは、チップを内蔵するか、撤退するかの選択を迫られる、と考える。
2015年、最後の専用TVが消える。その時「テレビ」は?
筆者も、キャンベル氏の見方を支持する。テレビ(受像機)はテレビ(放送)専用の「家電製品」として登場した。ビデオ、CATV、衛星放送などによってその世界を拡大させてきたが、ディジタル化の進行とインターネットのリッチ化は、ついにこの古典的家電製品に解体的衝撃を与えようとしている。PC用の薄型ディスプレイは年々大型化し、これをTV受像用に使う世代は増えている。彼らは、インターネットもTV放送も同じ感覚で使う。20インチ以下では、専用TVの必要を感じないかもしれない。皮肉にも、「地デジ」は、専用テレビの市場を拡大するどころか、消滅を促進するだろう。インターネットの使えないディスプレイは、邪魔で不経済である。Web でのビデオサービスの充実のスピードは非常に早い。重要なことは、放送免許を必要としないということ、コンテンツ業界は、柔軟で安価な、儲かるメディアを必要としているということだ。
さすがに米国のパイオニア精神は健在で、専用チップメーカーも生まれている。リスクを恐れない Visio などの新興TVメーカーは、その成果を躊躇なく取り入れるだろう。ブラウン管時代、TVは日本メーカーの独占状態だった。液晶が主流となってから凋落が始まり、国内市場を守るので精一杯だ。昨年までのPCと同じく、日本製品は国際的にみて高いし、高ければ確実に売れない。次世代のリーダーシップを取れなければ、家電の象徴ともいえるTVも、実質的に崩壊しかねない。
ブラウザ専用チップが数10ドルから数ドルの単位に下がるまでには数年もあれば十分だろう。2015年には専用TV受像機の商品価値はほとんど無くなっているかもしれない。放送業界も、インターネットを含めたビジネスモデルを開発しなければ、淘汰が進むだろう。2020年に、新聞を読み、TVのスイッチを入れるという生活は残っているだろうか。 (02/17/2009)
参考資料
What Convergence? TV’s Hesitant March to the Net, By Matt Richtel, NY Times, 2/15/2009
インテル社発表「デジタル家電向けシステム・オン・チップ製品を投入 テレビでもインターネット利用可能に~ 米ヤフーとインターネット・テレビで提携、モバイル・インターネット機器市場の成長、ソフトウェア開発者の無限の可能性を指摘 ~」 2008年8月21日
「インテルとアドビ、テレビ向け「Flash」で提携」、Jonathan Skillings、1/6/2009、CNET News.com
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2009年 2月 25日 at 4:23 PM
[...] 「テレビはWebに呑み込まれるのか?:TV用インターネット・チップの登場」 鎌田博樹、Intelogue、02/17/2009 [...]