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「成功の甘き香り」:Nespressoビジネスモデル

By Hiroki Kamata | 2009年 2月 20日

c90_titaniumオフィスや家庭に専用エスプレッソ・マシンと、コーヒーの粉が入った「カプセル」を販売するネスレ Nespresso 事業は、2008年の売上が30%増の17億ドル(約1500億円)となった。計画を2年前倒しで達成し、1210億ドル(2007)の巨大事業の一角を占めるまでになったという。International Herald Tribune 紙は、マシュー・ソルトマーシュ記者が「成功の甘き香り」(2/19)という記事を載せている。スターバックス帝国に陰りが見えはじめたいま、コーヒービジネスの王座の移動を意味するものかもしれない。Nespresso はまた、「サステナビリティ」を組み込んだビジネスモデルやマーケティングという点でも瞠目すべきものがあり、21世紀型ビジネスの教材として注目してみたい。

コーヒーは不況に強いライフスタイル商品

コーヒーやティーが近代以降、全世界に拡大し、「世界市場」を創造して歴史を動かす原動力にもなったことはよく知られている。それは現代にも引き継がれており、とくにコーヒービジネスはダイナミックだ。日本人の生活では、「インスタント」「喫茶店」「ドトール」「缶コーヒー」「スタバ」といったものが定着し、それぞれの業界では猛烈な競争により興亡を繰り返してきた。最新の傾向として注目してきたのは、オフィスや家庭のレギュラーコーヒー、欧州ブランドの進出である。前者は主としてコスト+味で評価され、豆や粉の市場を拡大した。後者は、フレンチやイタリアンの高級レストランから浸透し、エスプレッソマシンを使用したストロングコーヒーを定着させつつある。この両者が邂逅するところが「身近なエスプレッソ」であることは誰でも考える。現に家電量販店のマシン売り場の種類の増加は目を見張るほどだ。

高級レストランの味ではあっても、(マシンの償却を除けば)ランニングコストは驚くほど安い(5~30円)。高くてまずい「缶コーヒー」がこの世にあることが信じられないし、空間とWifiを除けば「スタバ」に行く理由を忘れてしまう。マシンのメンテナンスも苦にならない。したがって、「エスプレッソ」をめぐる市場はこれからも急成長するだろう。しかし、マシン、豆・粉、カフェなど、参入障壁のなさそうな「疎」なマーケットで、どうやってユニークな付加価値をコンシューマに提供できるだろうか。日本では、キーコーヒーUCC上島珈琲などが時間をかけて築いてきた豆の流通チャネルがあるし、通販なら誰でもやっている。

マシン+ポッド(カプセル)によるビジネスモデル

これに対する回答は、まずイタリアの高級コーヒーブランドのイリー(Illy)が「ポッド」を開発して先鞭をつけた。マシンの終端に自社の粉を流通させる道具として、マシンに取り付ける専用の「ポッド」を開発したのである。このモデルは、セーラ・リー社もフィリップスと組んでSenseoブランドで成功させている。IHT紙の記事によると、現在のところ、ネスレが欧州とアジアで成功し、セーラ・リーは北米で成功しているらしい。いずれも、価格設定やビジネスモデルは若干異なる。ポッド・モデルは1990年前後に登場し、かなり静かに浸透していった。日本に登場したのはつい最近のようだ。

味や価格満足度に関しては批判も多い。ヴァンクーバーの専門ブログ、CoffeeGeek.comなどでは、酷評も聞かれる。しかし、マーケティングの優秀さに関しては誰もケチをつけられないだろう。何よりも、(スタバがそうであったように)「あこがれ」と結びついたライフスタイルのパッケージングに成功した、ということだ。そのためにネスレは、アメリカズカップからフレンチ・オープン、カンヌ映画祭などのイベントスポンサーもやり、ジョージ・クルーニーやシャロン・ストーンを起用した。さらにサステナビリティへの配慮を怠らない。熱帯雨林保護のNPO、Rinforest Alliance に協力する農民から、45%の豆を購入(来年には50%)。コーヒー農民の生活向上のNPO、Coffee Quality Institute からは、Leadership Medal of Merit Award を受賞(2007)も受賞している。最大の課題は、アルミ製カプセルの回収だが、回収ポイント(スイスで2000ヵ所)を増やすしか手がなさそうだ。しかしこれもぬかりなくやるだろう。

Nespresso のビジネスをまとめると、おおよそ以下のようになる。

だいぶ雑駁な記事になったが、非常に周到に考えられたモデルは、非常に「21世紀」を感じさせる。もちろんこれにソーシャルネットワーキングを入れて、さらに「2.0」的な性格を強めることもできる。現在、50カ国に175のブティックを展開、2,500人を雇用しているという。年率30%の成長を続けると、数年で現在のスタバ(約80億ドル)くらいの規模になる勘定だ。ところで、日本におけるコーヒー市場の特徴として「反ブレンド主義」がある。これは日本茶以来の伝統だが、これを超えれば市場はさらに飛躍できる。コーヒーは、価格対満足度でいって、最も不況向きのビジネスである。日本的なコーヒービジネスにも期待したい。ちなみに、筆者はまだ Nespresso を味わう機会は得ていない。自宅では、安コーヒー(250gで200円前後)によるエスプレッソを究めようとしている。 (02/20/2009)

参考:
拙稿 「現代の貧乏神:反ブレンド主義」

Topics: 政治・経済・ビジネス | No Comments »

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