マドフ事件に新事実:やはり詐欺師は詐欺師だった。
By Hiroki Kamata | 2009年 2月 21日
マドフ事件については、英米のメディアが(三面記事風でない)取材・報道を続けており、少しづつではあるが、事実の解明が進んでいる。アービング・ピカード弁護士が率いる管財人チームは2月20日、1993年以降のすべての記録を丹念に調べた結果、株式、国債を問わず、1ドルの取引の事実も存在しなかったことを被害者に対し、明らかにした(NYTimes, 2月20日)。 一方、スタンフォード事件もますます拡大の様相。
1993年以来、1ドルの投資も行われていなかった
管財人がこれまでに押さえた資産は約10億ドルほど。まだ残りの490億ドルの行方を追う仕事が残っている。さしあたって、解明すべき疑問は、次の4点。
- マドフがいつから詐欺に手を染めたのか?
- どうやって監視機関の目をごまかしたのか?
- 配当に回した以外のカネの行方は?
- 被害者には(保険金を含め)いくら返ってくるのか?
1は入口であって、あとの2つに関る。2は、市場への信任を取り戻すためには最も重要なことで、解明されないと金融市場の再建は進まない。とはいえ、世間の目はどうしても 3に行ってしまうだろう。投資家以外にはそして 4に関心を持たないだろう。以下、事実関係は、NYTimes のダイアナ・ヘンリックス記者の記事による。
ピカード管財人によれば、この入口の問題は完全に解明された。それにより明らかになったことは、(被害者にとって)最悪のケース。つまり元は正直者のNASDAQ元会長が、正常な投資活動の業績が不振に陥った結果、やむを得ず手を出したのではなく、最初から一切のリスクを冒すことなく、詐欺にとりかかり、十数年にわたって継続してきたということだ。「虎の背中に乗ったら降りられなくなった」サティヤムのラジュ氏とは別の種類の確信的人間だったということになる。やっぱり凄い世界だ。
第2点についてはどうか。管財人は、何があったのかについて「かなりの心証をつかんだ」と語ったが、現時点で共犯関係についての情報を出すと刑事事件への影響があるとの理由でそれ以上のコメントを控えた。あとの2点については、海外顧客が多いためにかなり膨大な作業が必要となりそうだ。被害者(個人・法人)の総数は2,350。欧州にも多く、破産法も異なる国の当局と共同での仕事となる。
スタンフォード帝国も500億ドルを集める。被害額は?
ところで、アレン・スタンフォード氏の事件だが、これも連日のように報道されている。米国の司法当局は、「スタンフォード帝国」に関係する資産の総額は、500億ドル(!)にも上ることを突き止めた。被害額は、これまで判明しただけで92億ドル。顧客は世界140ヵ国に広がっており、各地でCDを引き出そうとする人々の多くは、空しく帰らざるを得なかったようだ。スタンフォード氏の手口は、マドフのような肩書がなかった分、かなり巧妙で、かつ華やかなもの。ばらまきの範囲は、ポロやクリケット、ヨットといったセレブのスポーツから、NBA、英国プレミアリーグにまで及ぶ。英王室につながるクリケットは、趣味と実益を一致させたようだが、演歌歌手を広告塔にしていた円天の波会長と基本的には同じだ。
スタンフォード氏は蕩尽家ともいえないしっかり者のようで、英国人を唖然とさせた「華麗なる米国大富豪が自家用ヘリコプターで登場」のセレモニーは、じつは1時間30万円ほどで制服乗員付きでチャーターし、ロゴマークを貼ったものだった。スポーツへのバラマキは、タニマチ風のものではなく、マーケティング上の効果を計算した安全な投資だったようだ。今年の夏に予定されていた2000万ドル・クリケット選手権「スタンフォード20/20」の見通しは立たなくなり、英連邦諸国民を不安にさせている。
スタンフォード帝国は、グローバリゼーションを反映して、米国よりもカリブ海と英国を多く使った。彼もマドフと同じく、リスクのある投資を避けて、せっせとスポーツや慈善活動に蕩尽していたようだ(マドフ証券には40万ドルを詐取されたようだが)。過去16年間、SECのブラックリストに載っていながら、本格的な捜査の対象とならなかったのは、マドフ事件の後ではたいして驚きではないかもしれない。金融市場の監視は難しく、善意と悪意を見分ける方法はない。いちいち取引の裏を調査しなければならないようなら、資金の迅速な移動など不可能になる。そんなことは誰でもわかっていながら、何も手を打たなかったということだろう。リスクに鈍感な市場システムが「詐欺的」になった時に、本物の詐欺師が羽ばたいたのである。
雲隠れと伝えられたサー・アレンは19日、米国ヴァージニア州フレデリックスバーグ付近でドライブ中に発見され、テキサスへと任意同行。この町は18世紀の英国王族でジョージ2世の息子、フレデリック・ルイスに因んだそうだが、皮肉なことに“Poor Louis”はクリケット狂で蕩尽の末、貧窮のうちに世を去ったとのことで、クリケットを国技とする英国人の話題となっている。
世界は騙されていた!
バーナード・マドフ事件は、将来の歴史家が21世紀の(つまり現下の)大恐慌の歴史を書く際には、1章を割く価値のある事件となるだろう。カネがカネを生むという金融工学への幻想、市場監視機構の完全な無力、輝ける世界の個人への完全なる信任が500億ドルもの詐欺を可能にした。いやマドフがけっして例外でなかったことは、今週のアレン・スタンフォードの一件ような、これも巨額な類似事件をあぶり出した。FBIのピストール副長官も議会において、2件の巨額詐欺も「氷山の一角」であると確信している、と証言した。関係者は現在、530件を捜査中で、うち38件は今回の金融危機と直接関係しているという。このクラスでも、まだ1ダースほどは出てくるだろう。もう1,000億円くらいではだれも驚かない。被害の総額は、兆ドルの単位になるだろう。経済刺激策も霞むほどだ。
市場経済への信仰は計画経済への信仰とよく似ている。どちらも数字によって成長し、嘘によって崩壊する。経済活動をもてあそぶと、悲惨な現実が待っている。 (02/21/2009)
参考情報:
- Madoff Never Made Supposed Investments, by Diana B. Henriques, NYTimes, 2/20/2009
- Allen Stanford debacle confirms sport is a whore, by Simon Barnes, The Times, 2/20/2009
- How Allen Stanford’s illusion of wealth fooled cricket chiefs, by Kevin Eaton, The Times, 2/20/2009
- FBI tracks down Allen Stanford to Virginia, by Suzy Jagger, et.al., The Times, 2/19/2009
- Lawyers from 21 countries tackle Madoff case, by Graham Keeley, The Times, 2/17/2009
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