キングのホラーより怖い:「出版」ビジネスモデルを解体する電子ブック
By Hiroki Kamata | 2009年 2月 26日
アマゾン「キンドル2」の反響をみていると、これが欧米の出版・読書界に与えた衝撃がただごとでないことがわかる。つまり、関係者は新世代の電子ブックが、間違いなく現在の出版ビジネスに破壊的な影響を及ぼすと見ているのだ。収益の90%あまりを稼ぎ出す有名作家、売れる著者は大手出版社を通さなくなり、それだけで壊滅的な打撃となる。英国のGuardian 紙(2/17)に、作家のナオミ・オルダーマンが書いている。
キンドルはこれまでの電子ブックとはわけが違う。何よりも、過去の売れ行きが証明している。オルダーマン女史によると、作家、編集者、エージェント、出版社など、業界関係者はおしなべて動揺しているという。まず出版社は違法コピーを心配しており、防ぐ方法はないとみている。いまのところはデバイスが普及していないので問題ではないが、キンドルのレベルの製品が普及したら、結果は想像に難くない。しかし、女史はコピー問題はコトの本質とは無関係だ、とさえ言う。むしろ作家による「自主出版」への動きのほうがはるかに重大だ。これまで、(キンドル2に新作を提供した)スティーブン・キングを含めて何人かが実験に挑戦して失敗しているが、それはまともな電子ブックリーダーがなかったためだ。
あるエージェントは、すべての出版タイトルの95%が赤字で、利益のほとんどは少数の著者が稼ぎ出したものだという。数字については諸説あるようだが、ともかくほとんどの本は赤字(あるいはトントン)で、1割前後(大部分が有名著者)の本だけが、ビジネスを成り立たせていると見る点では一致している。S.キングやダン・ブラウン、パトリシア・コーンウェルなど数百万部を売る作家がいなければ成り立たないのだ。そして彼らは出版社を必要とせず、自前で編集者やPR担当、デザイナーを雇って2~3ポンドで電子ブックを売っても、なおいま以上の利益を受け取れる。大手出版社が彼らを失えば、現在のビジネスモデルは崩壊する。なお出版社を必要とする著者も多いが、リターンは減る。
オルダーマン女史自身は、これまでのGuardian 紙のコラムを読んでも、電子ブックの利点や創造性を確信しているが、それでも来るべき変動は「スティーブン・キングのホラーより怖い」という。出版社の役割は、企画・編集・制作・販売を含むバリューチェーンのマネジメントだが、出版活動の創造性(つまり社会的役割)は「著者を発掘・刺激」し、時に「リスクテイカー」となって出版物を世に出す機能にあると思う。ところがそれは「売れる本」によって成り立っている。出版の参入障壁が低くなれば、売れる著者、売れない著者は出版社をバイパスする方向に動くだろう。出版社が生き残るには、これまで以上に創造性を高め、コストを下げるビジネスモデルを開発するしかないだろう。それでも大手出版社が現在の形態で残るのは難しいかもしれない。電子出版は活字の世界を民主化したが、同時に活字を軽くして、付加価値を落とした。技術的にせよ政治的にせよ、革命は微妙なバランスの上に成り立ってきた伝統的出版文化の破壊をもたらさずにはおかないのが怖い。 (02/25/2009)
参考:
プラットフォーム化する電子ブックリーダー:アマゾン「キンドル2」、INTELOGUE、2/11/2009
Topics: テクノロジーとビジネス, 電子ブック | 1 Comment »
2009年 3月 13日 at 12:02 PM
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