イノベーションを実現するソーシャルネットワーキング
By Hiroki Kamata | 2009年 2月 27日
昨日、電子ブックの記事を書いていて思い当たったのだが、イノベーションには必ず破壊的な側面がある。それが意味することは、
- 従来の経験、スキル、事業モデル、社会関係の一部あるいは大部分が無効化され
- それにより社会全体としての新しい価値創造につながる保証はない
- 影響を受ける側の人々は(可能な限り)無視あるいは抵抗する
ということであろう。イノベーションは嫌だ、という人はいない。しかし、現実にイノベーションの材料はいっぱいあるのに、多くは不毛の地に落ちた種のように、容易に根づかない。それは環境条件と調和しないからだ。
イノベーションをめぐるタテマエとホンネ
人はイノベーションを待望するが、自分やその周囲の環境を変えるくらいなら、目の前に来たイノベーションは歓迎しない。それまでの知識や経験、関係や安定した地位を危険に晒したくないからだ。歓迎するのは、自分にリスクがなく、利益が約束されている場合だ。たとえ自分の会社や社会に利益があっても、自分になければまず動かないのが人情だろう。自由競争、自由貿易の信奉者も、自分が負ける可能性がある場合は競争を望まないのと同じだ(新聞も再販制度護持は動かさない)。
タテマエとホンネのこうした分裂は、これまでほとんどのイノベーションの芽を枯らしてきたが、それは現在のように、企業や業界、社会を存続させるために、本当にイノベーションが必要となっている時でも変わりはない。危ない時ほど、自分自身のことを考えてしまうからだ。団塊世代は、「面倒なことは退職後にして…」と考えるし、リスクを取りたくないのは若い世代も変わりはない。上述したように、イノベーションが厄介なのは、(1) そこで働く個人にとっての知識・経験・関係性、(2) 組織にとってのプロセスと資源配分・責任と権限に変更を迫るためである。ゼロから始めるのであれば皆が積極的になれるのに、背負っているものがあるから消極的・否定的になる。
イノベーションを取り込める社会のデザインへ
個人的には、イノベイティブな産業と考えられているITビジネスにおいて、いかにユーザーもベンダーもイノベーションに抵抗してきたかを見てきた。イノベーションとはもっぱらテクノロジーに関するもののように言われているが、テクノロジーの部分は一部でしかない。残りは何かといえば、それは「ビジネスモデル」であり「ビジネスエコシステム」だろう。ビジネスとして完結し、さらに企業や業界、社会のなかで新しい協調的関係がつくれるかどうかが問題なのだ。テクノロジーとそうしたビジネス的要因との関係は、うんざりするほど複雑だが、それは「人間」があらゆるレベルで顔を出すからでもある。
社会にダイナミズムを取り戻し、同時にイノベーションを生産的・創造的な形で実現するために何が必要だろうか。社会と人間にとって何が本質的に重要な機能(価値実現)であり、そのためのプレイヤーと役割は何か、といったレベルまで抽象化して考えなければ出てこない。たとえば「出版」の場合は、想定読者に向けての情報の編集とパッケージ化、提供ということが本質的な機能であり、それはコンテンツからもメディア技術からも独立した機能である。出版企画、著者、編集者、デザイナー、制作者、流通のない出版を考えることはできない。
「電子ブック」はすべてのプレイヤーに影響を与える。しかし上述した価値は無効になるわけではない。また、コストの革命をもたらすことで、古本屋や図書館でしか見ることのできなかった、過去の貴重な書籍資源が日の目を見る、という大きなメリットがある。これまでたいして儲かっていなかった出版社が、イノベーションに怯える理由はないだろう。これまでよりは資源の浪費をせず、情報の価値が評価され、関係者が十分な対価を得られるしくみをデザインすることは十分に可能である。重要なことは、出版の社会的機能を高める(価値ある情報を世に出す)ことであって、そのために、著者と読者を中心としたステークホルダーとの結びつきを活性化させる、創造的な(つまり自閉症的でない)ソーシャルネットワーキングを生み出す必要がある。 (02/27/2009)、
Topics: テクノロジーとビジネス, 電子ブック | 1 Comment »
2009年 3月 5日 at 1:38 PM
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