合衆国初代CIOに34歳インド系ヴィべク・クンドラ (Vivek Kundra)が就任
By Hiroki Kamata | 2009年 3月 6日
危機の真っ只中にある世界で、ITに何ができるか? 3月5日に指名を受けた新CIOは、オバマ大統領との25分間のカンファレンスコールの中で、システムの構築とメンテナンスにおける旧習の打破を説き、クラウド・コンピューティングの積極的活用を主張し、民間をしのぐほどの効率的・効果的なサービスを実現したいと述べたという。NYTimes のハンセル記者は「政府のコンピュータシステム改革で、ヴィベク・クンドラがやりたいこと全部並べたら、医療保険制度改革でさえ簡単に思えてきた」と書いている。
官僚主義との戦い
政府のCIOは、OMB (行政管理予算局)に属し、年間710億ドル(約7兆円)にも上る政府のIT予算を管掌し、連邦政府の情報システムをデザインする要職だ。オバマ政権の公約にあったCIOとCTOの2つのポストの一つで、従来、省庁が独自に構築・管理してきた情報リソースを横断的・機動的に利用できるようにすること、セキュリティとプライバシーを確保しつつ政府情報の公開を促進すること、そしてシステム全体としての費用対効果を大幅に高めること…を任務とする。これを本気でやろうとすると、たしかに凄い。簡単に言えば、世界最大の官僚組織の中で、「官僚主義」に対する戦いを挑もうというのだから。
クンドラCIOの発想の基本は、まず「政府が特別な存在だと考えるのを止めること」だ。個々の問題に対応する専用のシステムを設計するのではなく、可能な限り出来合いのアプリケーション、サービスを利用する。さもないと、一般の教師や、警官、公務員は、一般社会人より貧弱な情報環境で仕事をしなければならなくなる。もちろん、クラウド・コンピューティングには、セキュリティとプライバシーの問題がつきまとう。しかし、このサービスのスピードと効率を考えれば、問題があるから採用を避けるよりは、バランスを考えながら問題の解決を考えたほうがいい、と彼は言う。
セキュリティ/プライバシー(以下S&Pとしておく)は、それ自体が技術とビジネス(政治)的判断が絡む問題で、トップが明快で妥当な指針とプロセスを定義し、ベストプラクティスを行っていくしかない。米国政府が決めれば、民間でも採用するところは多くなるだろう。クンドラCIOの就任は、IT(ソフトウェア)産業のビジネスモデルを大きく変える転機にもなるかもしれない。
“Gov. 2.0″=政策プロセスへの国民参加へ
情報公開は民主主義の原則だが、これを制限する理屈は(「テロとの戦い」をはじめ)1ダース以上もある。オバマ政権が公約した政治の公開性は、ロビイストを主要なエージェントとする、インサイダーによる「ワシントン政治」が機能不全を起こしているという認識に立ち、国民が情報を共有することで、オープンに議論し、納得のいく決定に至るプロセスを確立しようというものだ。ここでIT(とくにWeb 2.0環境)が大きな役割を果たす。さもないと、ただのマスメディア向けのお題目となり、政治不信をさらに高めるだろう。これを理想主義と見る人は多いだろうが、オバマはWeb 2.0の「ユーザーエクスペリエンス」を通じてひとつの確信を持っていると思う。
たろえば「景気刺激プラン」「金融システム救済」「ビッグスリー救済」「医療保険改革」など、強烈な副作用を伴いそうな劇薬をあえて使うためには、オバマのカリスマ性を持ってしても<誰かが得をしている>とか<自分たちは犠牲になっている>といった疑念にいちいち答えていかなければ治療は進まない。情報公開は、だから改革戦略の不可欠の手段でもある。迅速に・徹底して行われねばならず、それが成否の鍵を握る。これは、世界最大の組織のCIOに課せられた、前人未到の挑戦だ(だんだん気が遠くなってきた)。
情報公開の前提は、要注意(sensitive)情報を事前にチェックし、削除することだが、これに余計な時間=コストがかかることになっては意味がなくなりかねない。すべては、現実的なバランスをどこでとるか、そして(例えばルールベースの利用による)プロセスの自動化・インテリジェント化によって、どこまで効率化できるかということだろう。クンドラCIOは、コトの難しさと技術の限界を知っている。それは重要なことだ。
クンドラCIOのタスクリストのもう一つのテーマは、政府情報のリポジトリ “Data.gov”の創設だ。これには、NIHの「人ゲノムプロジェクト」のデータや軍事偵察衛星のデータが含まれる。「プライバシーや国家安全保障に関るものを除き、すべてのデータは公開できる」と彼は答えている。
DCのCTOとして:最初の電子政府世代として実績
クンドラCIOの経歴は、いかにもオバマ・チームの「ITテクノクラート」にふさわしいもの。インドに生まれ、11歳までタンザニアで育ち、その後米国メリーランド州ゲイサースバーグに移住。ヴァージニア大学(政治学)とメリーランド大学(情報技術)を出ている。主に地方政府でキャリアを積んだ。公共政策とITの職を兼務したこともあり、「電子政府」の経験を重ねてきたことになる。最近ではコロンビア特別行政区(ワシントンDC)のCTOを務め、86の行政部局のテクノロジー戦略を担当。情報公開と市民参加、コスト削減の成果が評価されて2008年の “IT Executive of the year” 25名のうちに選ばれている。オバマの政権移行 (Change.gov) チームの目にとまったのは自然だった。
DCのCTOとしての実績やアイデアは、ワシントンポスト紙に紹介されている (“DC’s Kinetic Tech Czar” by Kim Hart, 1/5/2009)。入札手続きはYouTubeで公開されており、スタッフは業務に Wikipedia や Twitter 、Facebook を使い、駐車違反の罰金支払いや運転免許の更新にもこうしたサービスを使ってできるように検討中。また”Apps for Democracy” というコンテストを主宰して、ウェブと携帯電話を使って市の情報にアクセスできるようにするソフトを公募したりしている。10件もあればと考えていたそうだが、30日で47のアプリケーションが集まった。通常の契約なら260万ドルかかるはずが、コンテスト開催と賞金の費用5万ドルで済んだという。
クンドラCIOは、政策と技術の両面で必要な資質を持ち、実績を実証された人物といえる。しかし、上述したように彼の任務は不可能に近い (Mission Impossible)ものが3つである。政府がテクノロジーに関連して、これほどエキサイティングな挑戦をした歴史的事例を知らない。やはり期待せずにはいられない。 (03/06/2009)
参照情報
President Obama Names Vivek Kundra Chief Information Officer, Press Release, White house, 3/5/2009
The Nation’s New Chief Information Officer Speaks, By Saul Hansell, NYTimes, 3/5/2009
White House Names First Chief Information Officer, By Brian Knowlton, NYTimes, 3/5/2009
D.C.’s Kinetic Tech Czar, Mixing a Start-Up Mentality With a Whirlwind Approach, By Kim Hart, Washington Post, 1/5/2009
Vivek Kundra, Chief Technology Officer of the Government of…(YouTube動画)
2008 InfoWorld CTO 25: Vivek Kundra, District of Columbia, Galen Gruman, InfoWorld, 6/2/2008
Topics: 政治・経済・ビジネス | 1 Comment »
2009年 4月 20日 at 5:54 PM
[...] た専門家を養成する高等教育機関があり、そこでITを解する新世代が出現して州レベルで実践の機会を得られているというのが、米国の強みであろう。 (写真=チョプラCTOとクンドラCIO) [...]