青空 (Azure)を覆う雲 (Cloud):クラウドの憂鬱
By Hiroki Kamata | 2009年 3月 24日
マイクロソフトのスティーブ・バルマー会長が NYTimes を訪れて、クラウドコンピューティング戦略を中心に語った内容が3月20日に出ていた。ソール・ハンセル記者の記事は、題して “Steve Ballmer Maps Microsoft’s Cloud-y Future”。クラウドを「曇り、不確か」にかけて駄洒落ている。たしかにこの技術(というよりサービス)については、見えない部分が多い。
バルマー会長が強調していたことの要点は、ざっと次のようなものだろう。
- クラウドはまだ始まったばかりだが、将来的には巨大な市場に成長する。
- コストは大きく、利益率が低いが、総収入が多くなれば大きな利益をもたらす。
- MSのクラウドは、主として大企業をターゲットにしている。
- Azureは多くを狙いすぎ(て失敗し)た Vista とは違う。
- PCソフトの多くがWebサービス (GDocsなど)に置換わることはあり得ない
注目されるのは、基本的にクラウドのOSともいえる Azure が、最初から大企業を目ざしていることだろう。多国籍でビジネスを運用していて、急な事業展開に即応することが要求される大企業は、たしかにクラウドへのニーズも大きいが、他方で言語や法制、慣習などの違いにより、要求も非常に厳しい(複雑な)ものとなり、正攻法のアプローチしかあり得ない、利益率の低い(あるいは黒字化すら難しい)ものとなるだろう。しかし、バルマー会長は、極地探検方式の重装備でヒマラヤを登山するような、そうした正攻法がよほど性に合っていると見える。
企業ソフトウェア市場での地位を確立するのに10年を要したことを強調する会長は、Googleもアマゾンも、大企業には入っていけていないし、まだこの市場は視野にも入っていない、と言う。ハンセル記者には、敷居の低いところから入る Google のほうが自然で、データセンター、DBサーバ、サーバ・アプリケーション、PCソフトウェアから構成される環境を、セキュリティやパフォーマンスで厳しい要求を持つ大企業に対し、最初からデータセンターのネットワークで提供しようというアプローチは、むしろ不自然と見えるのだが、会長はこの極地方式に強い確信を持っている。IBMとHPだけを当面のライバルとして考えているのだろう。
バルマー会長は手堅い。彼の下で、90年代前半までのマイクロソフト製品によくみられた粗さがなくなり、逆に「量から質へ」のイノベーションによって他社を圧倒した荒々しさもなくなった。出してくる製品はすべて完成度が高いのだが、ITの世界にいる人間から見ると(あるいは世間から見て)面白みがなく、同社のマーケティングも冷めている。しかし彼は株主とユーザーのことしか考えていない(他に誰を?)。筆者からみると、周辺からの浸透を図る Google やアマゾンと、中心(大企業)の制圧を先行させようとするマイクロソフトの戦略の違いは、あまりに分かりやすくて、ITマーケティングのケーススタディのようだ。
問題は、当分は続く大不況下にあって、そしてデータセンターを抱える大企業にとって、クラウドがそれほど魅力的かということだろう。トヨタとダイムラーが、VISAとマスターカードがともに、とくに同じ会社のクラウドを使うとも思えない。ビジネスプロセスやビジネスルールなど、秘匿しておきたいシステムも増えてきているし、それに対して Azure はあまりに多くを狙いすぎる印象もある。しかし、正攻法のクラウドは技術的にも見ごたえがあり、こうでなくっちゃとも思える。結局、ハンセル記者の標題に行き着いてしまうのか。発見がなくてすいません。
一つ付け加えると、別の記事でバルマー会長は、Yahooの検索サービスになおご執心であることを明らかにしている。インターネットで本当に儲けているのは3社だけ。Googleとアマゾン、eBayだ。インターネットで儲けようと思ったら、検索はどうしても外せない。だからGoogleにチャレンジし続ける、というのである。しかし、Yahooの新社長はとてもタフそうで、むしろマイクロソフトの検索サービスを狙っているとも言われる。
ところで、マイクロソフトに大きな成功と富をもたらしてきた個人(消費者)はどう思っているのだろう。「Officeが一般家庭で使われているということはとてつもなく重要だ。消費者を失えば、企業も失うことになる」。またも企業が出てきた。彼の言うことは正論だ。しかし、個人は Office とゲームだけで生きているわけではないと思う。 (03/24/2009)
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