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電子出版2.0+事始め 酔夢譚序

By Hiroki Kamata | 2009年 3月 30日

最近の電子ブックの動きを追っていくうちに、かつて考えたテーマの記憶が刺激され、脳内で醗酵するうち、自ら酔いを発してしまった。なんとなく「来るべき世界」が見えてきたような気がする。数年前に胆石を患った際に痛み止めのモルヒネを注射され、人工楽園に遊んで以来のハイかもしれない。その時浮かんできた「偉大な」着想(もしかして啓示)を書きとめておかなかったことは、大いに悔やまれた。そこで今回は、恥をしのんで、醒めないうちになんとかまとめ、皆さんと共有してみたいと思ったしだい。今年は筆者が電子出版についてのニューズレターを創刊してちょうど20年目にあたる。大学で謄写版にガリガリやって以来、「出版」への関心を失ったことはない。そして「電子」のほうも、いちおう職業的に付き合ってはきた。そうおかしなことも書かないとは思う。どこまで続くかはわからないが、お付き合いいただけたら幸い。(恐惶謹言)

00. 電子出版と電子ブック (1)

Xerox 8010 (1981)15年以上前に、『電子出版』という本を書いた (1993、オーム社)。1980年代後半に本格的に市場に登場してきた技術(DTP、レーザープリンタ、データベースとネットワークなど)に注目しつつ、出版の世界を変える技術を解説したものだった。当時の技術は、基本的に印刷を前提とした制作プロセスの電子化にフォーカスしたもので、電子ファイルのままで読む形は(登場してはいたが)まだ脇役だった(画面解像度が低く、反応も鈍かった)。オンライン情報サービスも、インターネットももちろんあったが、一般にはあまり普及していなかった。「電子ブック」はとても貧弱で使う気にもならなかった。

hypertexteditingsystemconsolebrownuniv19691実用技術としての「電子編集制作システム」と、将来形態としての「紙から独立した出版」との間では、当然前者に比重をおかなければならなかったが、個人的関心はむしろ後者にあった。なぜなら、電子出版の本質は、知識の構造体としての「ドキュメント」の動的な操作にあり、DTPはその一形態にすぎないからだ。他方、ヴァネバー・ブッシュMemexの構想を基に、テッド・ネルソンダグラス・エンゲルバートHypertext で原型をつくり、ビル・アトキンソンHyperCard が初めて大衆化し、そしてティム・バーナーズ=リーがWWWで世界を変えることになる技術こそ、「電子出版」の本流となることは、すでに明らかに思われた。しかし、市場の動きは遅かった。

ここで私はソフトウェア技術の魅力にとり憑かれ、現実の市場から離れてしまった。<知識の構造体としてのドキュメント>の動的な操作を可能とする技術、環境、標準など、ほとんど無限の広がりを持つ世界に足を踏み入れてしまったのだ。研究者でもなく、ただのウォッチャーでありアナリストでしかないのに。それからは、マルチメディア、人工知能、オブジェクト技術、分散処理、データベース、ユーザーインタフェース、モデリングなど、どんどん奥へ周辺へと関心領域を広げたので、逆に「電子出版」からは遠ざかるばかりだった。知識の構造化のプラットフォームとして期待したハイパーテキストが、そちらのほうではあまり進化していないことにも失望した。

1995年ごろ、ハイパーテキストの生みの親の一人で、CG技術の祖でもあるブラウン大学のアンドリーズ・ヴァンダム教授にインタビューしたことがあるが、教授は「若いころは、世の中の進化がこれほど遅いとは思わなかった。1960年代に構想し、実証したアイデアのうち、まだ半分も商業化されていない」と語っていた。教授の失望は、電子出版がなお物理的な制約の中にあり、知的活動のすべてには対応していないことだった。彼はマルチメディアなどより進んだ、対話的でダイナミックな環境、様々なアプリケーションの機能を「本」の中で実行し表示できる、アクショナブルなドキュメントを開発していたのである。ただそれを研究所や軍などの特別な環境の外で商業的に実現することは、何10年かかるかわからないチャレンジだった。

電子出版のような、複合的な技術が社会生活に(ビジネスを通して)に定着するには、技術的なものから社会・経済的なものを含め、無数の条件をクリアしなければならず、少なからず偶然も必要となる。500年以上の歴史を持つ出版業が電子技術を、印刷以外の目的で使い、本を超えた本の技術を受け容れるには、それが当然でもある。だから、電子インクだとか、薄型パネルだとか、無線インターネットとか、電子ブックのキーテクノロジーが、次々と必要条件をクリアしていっても、たいして気にならなかった。

しかし、ついにその時は来た。

(03/28/2009)

参考:

Memex and Beyond Web Site

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