急拡大する「クラウド」とソフトウェアビジネスの運命 (1)
By Hiroki Kamata | 2009年 4月 1日

ガートナー社の発表(3/24)では、世界のクラウド・コンピューティング市場は、予測を超える驚異的ペースで伸びており、464億ドル (2008)から、21%増の563億ドル (2009)へ、そして1,501億ドル (2013)に達する (PC Magazine などによる)。しかし、この数字が多くのIT業界関係者にとって必ずしも明るくないのは、成長分のほとんどが既存のITサービスからの移行によるものだからだ。2008年のIT市場規模が3兆4,000億ドルだから、大不況下であることを考えると、数年で5%前後を占める可能性があることになる。その分、雇用が失われる可能性が強いからだ。
ユーティリティ化したITの帰結
広告、コマース、人的資源管理、支払管理などのビジネスプロセスが83%を占め、とくに広告が280億ドルと最大。ここ当分、クラウドの成長を支えるのは、広告ベースのサービスで、Google、Yahoo、マイクロソフトその他が提供するものとなりそうだ。これは近い将来、広告およびメディア市場を大きく変えることになると、ガートナーでは見ている。他方で、システムインフラストラクチャをそのままクラウドに移行する例は非常に少なく、2008年で5.5%、今年でも6%と予測されている。
InfoWorld の3月25日付には、”IT Doesn’t Matter”という、かなり衝撃的な論文をHarvard Business Review に書いたことで知られるニック・カー (Nick Carr)のインタビューが載っている。カー論文のポイントは、ITがほとんどの企業(組織)において同様にインフラストラクチャとして普及したことによって、少なくとも通常のやり方では差別化要因とならなくなる。その結果、ITは電力やガスのようにユーティリティ化する、というものだった。
これは事実として納得できる。これまで大企業を先頭に進められてきたITシステムは、いわば自家発電装置(それも多種多様な仕様の)を設置するようなものだった。いまや特殊な用途を除いて、「独自の発電」を高いコストで維持する必要はなくなった。問題は、IBMやマイクロソフト、Googleなどが「ユーティリティ企業」としてITサービスを担うようになった時に、これまで特別な発電機や電気工事、専用の電気設備と保守などで食ってきたビジネスモデルはどうなるか(常識的には崩壊する)ということである。
クラウドの衝撃はITにとって悪夢か?
クラウドは、ユーザーから見れば「ユーティリティ・コンピューティング」であり、それはIT業界とそれに関係する人々にとっては、悪夢とは言い切れないまでも、未経験の衝撃になることは間違いない。カーはそれを「ITが問題でなくなる」ことからの自然な帰結であると言う。ユーザーから見ると、クラウドを採用して大幅にコストを減らすか(一時的にはコストで優位に立てる)、独自のITのコスト・パフォーマンスを高めるか(ビジネスパフォーマンスとして優位を目ざす)の選択を迫られることになる。こういう選択を迫られたほとんどの CIO の選択は、前者となるだろう。これは不況下ではデフレスパイラルのような収縮効果を持つことになる恐れもある。
カーによれば、このプロセスは10-15年かかるというが、クラウド市場の成長は予想以上に早いことも認めている。大規模なデータセンターを有する大企業に対して、クラウドがそれに取って替わる規模と安定性を提供できるようになるには、たしかに5年以上はかかりそうだ。しかし、小企業→中企業→大企業の事業部門へと、クラウドの浸透は止まらないだろう。
IT産業は、これまで計算機の小型化、クライアント/サーバ・モデル、ソフトウェアのパッケージ化、オープンソース化など、価格低下の波を乗り越えて逆に市場を拡大することに成功してきた。だから、インフラ化→ユーティリティ→クラウドが直線的に進行するとは必ずしも言えない。役所ではあるまいし、情報処理と利用の形は企業ごとに違う合理的な理由がある(ない場合もあるが)。しかし、IT技術者にはかつてないプレッシャーがかかっていることは確かである。次回もカーのインタビューをもとに検討してみよう。 (03/31/2009)
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