急拡大する「クラウド」 (2):システム部門が消える!
By admin | 2009年 4月 2日
現在、マイクロソフト、Yahoo、Google、そしてアマゾンの4社が購入するサーバ関連製品の金額は、世界市場の20%を占めていると言われる。これは驚異的な数字だ。IBMやHPなど、自社製品を持つサービスベンダーを加えると、ひと握りの米国企業に圧倒的なコンピューティング・パワーが集中していることになる。たいていのユーザーは、自社でサーバを保有するのがあほらしくなるだろう。少なくともパフォーマンスとコストに関する限り。ニック・カーの話を聞こう。
20%という数字は、彼がマイクロソフトのリック・ラシードSVPから得たようで、信憑性は高い。数年間で一気に購入を増やしたわけで、いよいよユーティリティ・ビジネスに乗り出したことを意味する。たしかに個人が使う「2.0」のサービスは、すべてクラウドで提供されており、これがビジネスに浸透していくのは時間の問題なのだろう。このユーティリティ産業は、電力やガスのような地域独占はなく、それどころか国境すらない。ナショナリストは問題にするかもしれないが、実際、サービスを止められたり、データを差押えられたら、えらいことにもなる。
泣いても笑っても「ユーティリティ化」は進む!
不況はクラウドの成長を促すだろうか、それとも…? という問いに、コスト削減、効率化、スリム化への圧力が強まる一方で、不況下では実験的な試みを止めようとする心理が働くので、まだ見えないとカーは語る。しかし、これまでの新技術の導入では、必ず多額の投資やスタッフの確保、アプリケーションの開発などを必要としたのに対し、クラウドの「実験」では、ハードウェアやソフトウェアはサービスベンダーが投資を終えており、システム部門のすることは、データの移行くらいしかない、というのだ。ということは、反対するにはコスト以外の理由を並べるしかないだろう。企業への浸透を測るよい目安は、セールスフォースの業績だそうだ。
彼は、一つの製品がサービスを組み込んだモデルとして、アマゾンの Kindle に注目する。つまり、インターネット接続を(追加料金なしの)機能として組み込んだことによって、ただの「電子ブックリーダー」を超えたのだ。解説すると、これは富山の置き薬のように、つい手が出るものなのである。クラウドも癖になる。ユーザーは独自のアプリケーションを開発することをためらうだろう。考えてみれば、昔はたいへんなことをやっていたものだと懐かしむようになるかもしれない。ソフトウェア開発のリスクは、計画を完全に達成できることがむしろ珍しいくらいで、保守コストは開発コストより一桁近く大きい、という途方もないものなのだ。NY Times 紙は(もちろんコスト圧力もあるが)全面的にアマゾンのサービスを使うことにした。これはおそらく戦略的な決定であり、同社のネットサービス・プラットフォームの全面的利用につながるだろう。
Web 2.0の情報共有モデルが組織を変える:大企業モデルは現実的か?
企業の組織は「情報共有」の単位であり、それをサポートするシステムのあり方と大いに関係してきた。電話、PPC、FAXに始まり、それからLANが普及した(大小無数のサーバが購入された)。システムはますます複雑になり、トラブルは日常化し、かつての汎用機の時代が懐かしく思われた。そして「Web 2.0」である。これはビジネスからではなく、いきなり個人の生活に入っていった。(筆者のような)零細企業はこの恩恵に浴すことができるわけである。重要なことは、組織をいじらなくても情報を共有できること、ネットワーキングによって新しいアイデアと活動が生まれる、ということである。毎日顔を合わせる「組織」をサポートするLANでのワークフロー管理はどこかぎこちなかった。しかし、会社ではまだほとんど使われていないWeb 2.0のコミュニケーションに慣れると、19世紀的な「官僚組織」が非現実的なものに思えてくるほどだ。
筆者は社会/心理学的関心を持っているが、ネットの普及と関係なく、どうもWeb 2.0の社会的インパクトには国(社会)によって大きな差があるようだ。オバマはWeb 2.0で大統領になったが、日本の政治ではまだWebサイトすら満足に利用できていない。公職選挙法改正という以前の問題で、コミュニティとコミュニケーションのあり方が、なかなか「仮面舞踏会」や「覆面プロレス」のような有様から変わろうとしないのだ。大企業文化はWeb 2.0とは親和性がない。だから普及しないのではないか。
カーによれば、まだビジネス2.0の技術とサービスは初期段階にあり、次の世代で大きな飛躍を遂げるだろうとみている。生活の中で使えている技術が、まだビジネスでは使えないことの不合理を体験した世代が、新しいサービスを始めることになるだろう。セールスフォースの創業者、マーク・ベニオフも、オラクルにいた当時、そうしたユーティリティ的サービス環境を体験したことで、事業化を考えた、と彼に語っていたそうだ。
情報システム部門は消え去るのか?:技術者には存在理由を証明が求められる
InfoWorldのトム・サリヴァンは聞く。それでは、ユーザー企業のシステム技術者は、いったい何に備えればいいのだろうか? ユーティリティ化によって、これまでの仕事の大半は無くなる、とカーはあっさり答えている。社内の複雑な設備やアプリケーションを保守・運用したり管理したりする仕事は確実に無くなる。一夜にして起こるわけではないが、10年以内には確実に進行する。IT部門は存続できなくなる。以前より重要な役割を担う可能性はあるが、それには伝統的な役割から転換しなければならない。人は減り、予算も激減する。
筆者は、ソフトウェアの再利用に関する技術を一つのテーマとしてきた人間であり、生産性の向上によって、ソフトウェア開発の創造性・信頼性を高め、それによって際限のない「情報」ニーズに応えていくことを考えてきた。だから、システム・アーキテクチャの簡素化は、人減らしを意味する単純なコストダウンよりも、高度化に比重を置くべきだと考える。ただ情報の意味性を開拓する高度化には、現場の知識が不可欠である。サーバやOS、開発ツールに関する知識とスキルへの需要は、エンタープライズ市場に関する限りは減少していくことは間違いない。システム技術者は「現場」に入り、そこで必要とされる「情報」を設計することが求められるのだろう。
組織が社会を、あるいは社会が組織を支え切れなくなった時、その組織モデルは崩壊し、新しい社会的活動に最適化された別の形態が生まれる。「大企業」は、少なくともITの世界では、ひと握りの「超企業」にのみ許されたサイズと形態になっているのではないかと思われる。いやITに限らず、「内向き」になった大企業は、逆に維持が困難になるかもしれない。グローバルな環境下では。 (04/02/2009)
Topics: テクノロジーとビジネス | No Comments »