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孤児 (絶版本)の親権:Google 電子図書館の「独占」に疑義

By Hiroki Kamata | 2009年 4月 4日

kirtas_apt_bookscan_1200_-_01いま全米の主要図書館では、ブックスキャナがサラサラと軽快な音を立てながら、粛々と本を替え、全ページを読み取っている。すでに“読破”した冊数は700万冊。それらは (1) 著作権切れのもの、(2) 権利を主張できる著作者が確認できるもの、そして (3) 連絡不能などで確認できないものに分かれ、(3) には20世紀の文芸書や研究書、数100万冊が含まれる。これらの孤児たちの「魂」は複写されて新しい父親に引き取られることになっている。データベースに収容され、有償で貸し出されるためだ。父親の名は Google。

著作権者不明の絶版本の権利をGoogleが独占

著作権者に連絡が取れない可能性は小さくない。どうでもよいと考える遺族もいるだろう。古書店に持って行っても、二束三文にしかならないかもしれない。しかし、数100万冊の単位になると話は別だ。量は質に転化し、20世紀の知識のかなりの部分を占める。たとえば、20世紀初頭の科学革命とその広がりについて考えたいと思ったら、現在も新版が出版されるような代表的著作だけでなく、その周辺のことを調べられないと研究はできない。あるいは文学研究で、同時代の作家の間での言葉や表現のパターンについて、統計的な分析を必要とする場合もそうだ。もちろん、すでに知られているもの。資料的価値以上のものを有しているものも少なくない。すくなくとも「知らなかった」ではすまない研究者には不可欠なものである。

さて、昨年10月に交わされた米国出版協会 (Association of American Publishers)、著作者協会 (Authors Guild)とGoogle社の134ページの「和解合意書」により、Googleは自己負担で本の電子化を行い、独占的な所有権を持つ。つまり、ライバルが同様に電子化しようとすることも(事実上)阻止できる。独占のいいところは、価格競争がないところだ。競争の怖さは、市場経済下にいる者なら誰でも知っている。だから「自由」を神棚に上げて安心できるまでは、どんな手を使ってでも競争を回避したくなる。研究者や一般読者は、この社会主義的な統一電子図書館の便宜を利用し、料金を支払う。広告付きで無償利用できるかも知れないが、もちろんタダではない。

大規模な法廷論争の開始へ

NYTimes の4月4日付、ミゲル・ヘルプト記者の記事によると、米国人は、この社会主義が我慢できないようで、出版社や著者たちが不満の声を上げ、一部の大学やNPOが、さきの「合意」の不当性を連邦裁判所に訴えている。合意そのものは裁判所の判断に委ねられており、6月に審査が行われる。Google社はもちろん反論し、電子化によって巨大な便益がもたらされ、それに誰でも同様な(つまり排他的)契約を上記団体と結ぶことはできるではないか、と主張している。Googleと競争をやって勝てる力と意志がある企業が簡単に見つかるとは思えない。

著作権専門家、独禁法専門家、図書館関係者は、便益のほうは認めながらも、私企業と業界団体の間の私的契約によって、実質的に(議会を通さずに)著作権法の改訂に等しいことが行われてしまうことに疑義を呈している。Open Content Alliance の創立者の一人、ブリュースター・カール(お、Alexa で会ったことがある!)は、「立法手続きを省略しようとしている」と非難する。関心は静かに高まっており、全米図書館協会、ニューヨーク・ロースクールの情報法・政策研究所、ハーヴァード・ロースクールのチャ―ルス・ネッソン教授らのグループらが結集しつつある。
「われわれは、少数の大図書館の奥深くに死蔵されていたも同然の資料の巨大な集積に対する新しいアクセス方法を確立しようとしているのです。」
AAPの前会長でベルテルスマン社米国部門のリチャード・サーノフ会長はこう反論している。

同意書のいまひとつの問題は、それが米国著作権法で保護されるすべての書籍について、目次や要約、引用など、デジタルコピーの広汎な利用を認めていることである。Wikipedia の解説によると、ベルヌ条約の加盟200ヵ国、つまり日本にも効力は及ぶという。日本でさほど問題にされた形跡がないのは不思議だ。Googleは米国の全著作物の20%についてのアクセスを大学や研究機関に販売することが認められる。公共図書館はコンピュータ1台に限り無償でアクセスでき、また個人はアクセス権を購入することができる。さて獅子の分け前。Googleは検索広告を含めた37%を確保し、著者と出版社で残りを分ける。新たに Book Rights Registry なるものを設立して、権利関係の管理と収入の配分を行う(JASRACのようなものか)。Googleは、これによって「孤児」の親権者が現れるだろうと主張している。なお、著作権者は公開を拒否できる。

RegistryとGoogleの間の契約は排他的なものではないが、第三者と契約できるのは、著者と出版社が明示的に承認した書籍に限られる。これはもちろん「孤児」たちには及ばないので、Googleだけが総合的な電子図書館を構築できることになる。Googleの主任弁護士は、批判を受けとめながら、アクセス改善という目的に向かって努力していくと述べ、法改正へのロビイングも続けるとしている。また価格に関しても「最大限の顧客に利用可能な水準」という合意書を引用して、高止まりすることはないと説明している。これによって最も影響を受けることになるアマゾン、そしてマイクロソフトはともにコメントをしていない。しかしもちろん司法での動きに神経を尖らせている。アマゾンの電子書店と Kindle の運命にも影響する。 (04/04/2009)

Topics: テクノロジーとビジネス, 電子ブック | 1 Comment »

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One Response to “孤児 (絶版本)の親権:Google 電子図書館の「独占」に疑義”

  1. “Google 電子本合意”の独禁法問題を司法省が調査 | INTELOGUE さんより:
    2009年 5月 2日 at 3:09 AM

    [...] 「孤児 (絶版本)の親権:Google 電子図書館の『独占』に疑義」 本誌4月4日 [...]

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