「フランスの階級闘争」2009年版:奏功する“ボス軟禁”戦術
By Hiroki Kamata | 2009年 4月 22日
集団的な解決を必要とする問題に対して、人々がどう行動するかは一様ではなく、非常に興味深いものがある。多くの国が、制度的には「民主主義」と「法の支配」の原理を採用しているが、行動のスタイルは、そうした制度より文化的伝統に依存すると思う。米国なら真っ先に弁護士が動く。タイでは街頭へ繰り出すが、なんとなくお祭りの雰囲気があり、デモ側、警備側ともに驚くほど自制が利いている。「赤」と「黄」がなぜか交互に登場し、それぞれ空港を占拠したり、首脳会議を中止させたりしながら、戒厳令も出ない。外国人はただユニークさに感嘆するほかはない。
さて、市民革命と階級闘争の伝統があるフランスで、目下大流行しているのが、リストラに抗議する従業員による「経営者軟禁 (bos-napping)」事件だ。ソニーをはじめキャタピラー、3Mなど名だたる国際企業も事件に見舞われ、最近では連日のように起きているという(朝日 4/22)。面白いのは、(1) 当事者間で短期に解決、(2) 物理的暴力は皆無、(3) 警察は介入せず、(4) 多くは労働者側の勝利、(5) 世論は労働者側を支持、といったことだ。米英のメディアは自国企業が「被害」に遭うせいもあり、かなり大きく取り上げて不思議がっているのに対し、フランスでは当然視する世論が63%もある。さすがはストライキ大国の面目。
世論の支持をバックに拡大
この「軟禁戦術」は、1970年代に一時盛んだったスタイルの復活という。重要なことは、労働者側が、要求の「強要」ではなく「交渉」を要求していることで、軟禁は交渉を拒否する相手に対する最後の手段、という一線を守り、暴力や暴力的言辞による圧迫を徹底して避けている点だ。とはいえ、もちろん違法は違法、サルコジ大統領も非難しているが、世論の支持は労働者側にあるので、実力行使には踏み切っていない。労働者への支持は、これは個別企業の問題ではなく「階級闘争」である、というコンセンサスがある、と英米のメディアも分析している。「階級闘争」というと古めかしく「革命」的な印象があるが、(社会主義を目標にしようとしなかろうと)労使の利害対立がある以上、集団的交渉によって解決するのは当たり前ということだ。
「経営者たちはわれわれの年金を元手にカジノに行き、スッてしまった」という怒りはかなり強い。失業者の再就職はもちろん非常に難しい。「富の再配分か、しからずんば革命」か、という左派のスローガンは、何度も革命をやった国だけに迫力がある。労働者は経営者に「ボーナス返上」などを“財源”に1ユーロでも多く補償することを要求し、「道徳的」に弱みがある経営者も、たいして頑張らずに要求を認める。週刊風刺紙『カナール・アンシェネ』は、愛人とともに高級レストランでディナーを囲んでいる「ボス」が、細君に「従業員に拉致されたので今夜の夕食はいらない」と携帯で電話している風刺漫画を載せたという。
日本ではむかし(1970年前後)「大衆団交」というものが活発に行われたが、これは元になった「団体交渉」が目的とする議論(対話)ではなく、多くは「吊るし上げ」(集団的蛮行)に近いものとなっていた。筆者は1969年頃、法政大学の中村 哲(あきら)総長が、長時間にわたるこの「団交」で一歩も引かず、衆を恃み「聞く耳など持たない」態度の過激派学生たちを、言葉の力で説き伏せたのを目撃したことがある。日本は「情」を「理」がコントロールすることが難しい国だが、再び試される時代が来ようとしている。 (04/22/2009)
参考:
French Workers Hold Bosses Captive to Force Negotiations: President Calls for Order, but Hostage-Taking Continues, By Edward Cody, Washington Post, 4/18/2009
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