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「利益のキヤノン」に広がる製造現場の空洞化

By Hiroki Kamata | 2009年 5月 17日

キヤノンの一眼レフで不良事故が多発する理由、製造請負依存の死角」(東洋経済オンライン、5月14日)を読んで、とうとうここまで来たかと思った。「赤福」や「船場吉兆」などでみられた“現場の崩壊”が、日本を代表する輸出企業の最終製品にまで及んできたとみられるからだ。基幹工場において、直接雇用関係のない(つまり利害や目標の共有が困難な)数千人の「作業員」に製造を「請負」わせたらどうなるか。20年前なら正気とは信じられなかったろう。だいたい製造現場がそれほど甘いものなら、日本が世界で勝てるはずもなかったはずだ。 

キヤノンの御手洗冨士夫氏もそうだが、雇用の非正規化を大胆に推進し(て短期間に「利益を出す」体質に変え)た経営者は、米国支社長経験者が少なくない。かの地で日本の品質やサービスに対する称賛を背に浴びつつ、同時にトップダウン、プロフェッショナリズムや金融、雇用の「柔軟さ」に強い印象を受け、これらを合体させれば「最強の経営」を実現できると考えたことは想像に難くない。先人が営々と築き上げたものを既定値と考えれば、「日本的経営」など、いかにも非合理的なものに見えるだろう。発想は悪くないが、ここまでなら、しろうと考えの域を出ない(「悪魔は細部に宿る」)。日本人は概して大胆なシステム設計が得手ではないから、この大胆な発想を精密に設計し、慎重に実験するようなエンジニアはもともと手薄である。だから、(労使間の伝統的な信頼関係を利用して)米国企業も驚くほど思い切ったことを断行してしまったのだ、と思う。

短期には効果的でも、長期には破壊的なものはよくある。金融はそうだが、生産管理などもその一つだ。米国では80年代に「日本型」の特長と成功の秘密を工学的に解析し、90年代からは盛んに実践した。うまくいったものもあるし、いかないものもある。「シックスシグマ」や「バランストスコアカード」などの管理手法は、かなり七面倒くさい。これらも「日本型」経営の有機体的メカニズムを工学とITで実現しようとしたものだ。バリューチェーンビジネスプロセス管理のコンセプトも、日本的な全体最適型組織観が基本になっている、と筆者は考えている。しかし、「日本的構造改革」の旗手たちは、本家意識のせいか、失われた10年のためか、かなり無造作に「日本型」を否定してしまった。それまでの遺産(現場力)が残っていた間は、非正規化によっても過去の精華が簡単に失われることはなかったが、組織としての空洞化は進む。それが「欠陥」や「不良品」「隠蔽」といった問題として顕在化し、「元請負社員」などによって現場の荒廃が語られる時には、すでにかなり進行しているのだろう。

キヤノンのケースが「手遅れ」とは思いたくない。しかし、巨額の利益を出しながら、多くの問題を抱えた「大分工場」が、いまやこの世界的企業の誇りではなくなっていたことは確かである。働く人々が誇れない工場で、世界一の製品はできないだろう。現場を再建するには御手洗氏以上の大胆さが必要と思われるが、ぜひ期待したい。 (05/17/2009)

「キヤノンの一眼レフで不良事故が多発する理由、製造請負依存の死角(上)」
「キヤノンの一眼レフで不良事故が多発する理由、製造請負依存の死角(下)」
『週刊東洋経済』5/14, 5/15 By 桑原幸作

Topics: テクノロジーとビジネス, 政治・経済・ビジネス, 書評(本・新聞・ブログ) | No Comments »

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