自費電子出版ソリューション:Kindle 4 Blogs と Scribd Store
By Hiroki Kamata | 2009年 5月 19日
アマゾンの Kindle は電子出版物のユニバーサルな配信プラットフォームとなるのがミソで、新聞や教科書にも領域を広げている。5月13日、アマゾンは Amazon Kindle Publishing for Blogs というサービスを開始したが、これはブログ自費出版者を支援するもの。米国では、新聞が没落する中で、ブログはジャーナリストのメディア、あるいはプロフェッショナルの情報源として定着しており、有料化しても需要が見込めるものも数多い。アマゾンのサービスは、月99セント~1.99ドルの料金で、Kindle Store が購読・配信を代行するものだが、問題は発行者が30%しか得ることができない点だ。そこで別のアプローチも生まれる。
アマゾン:検索エンジンは使わず、カネで買う癖をつける
Kindle Blogs は、アップロード後1日以内に端末に無線で自動配信(ダウンロード)される。RSSフィードのような抜粋ではなく全文だ。これはアマゾンが通信料金を負担する一種の「宅配」サービスと言えるが、ロイヤルティ30%というのは、アップルが iPhone/iPod のアプリケーション開発者に提供する70%はもちろん、アマゾン自身が BookSurge で自費出版者に提供する35%と比べても少ない。しかも販売価格の設定権も与えない。「公正な価格で提供する」というが、決定基準も示さないというのだから、強気も徹底している。
商業的なニューズレター発行者などはまず利用しないだろう。価格問題もさることながら、名簿管理、オンラインニューズレター作成・送信、ダウンロード確認などの機能をワンパッケージにしたCMSプラグイン製品やWebサービスが安価で利用できるから、あえて使わなくてもできる。購読者管理も自前でやるべきもの。もちろん、商業的ブログホストも30%以下の手数料で会員課金サービスを提供している。だから、この条件でどの程度の利用があるかとも思うが、付加価値としてのショップの媒体効果と「無線自動全文配信」はそれなりのものではある。それにアマゾンとしてもこれで儲けようという価格ではない。
したがって、1~2ドルという価格は、配達料と考えるべきもので、Kindle Shop を使って少額といえども有償のサービスを提供することにより、よりしっかりした読者に情報を提供できるということであり、アマゾンのほうでは、本のマーケティングの一環として、検索エンジンを介さずに(というのが重要だと思うが)よいデータが取れることになる。Google との対抗上、ブログについても独自の顧客ベースが重要なのだ。Kindle の中心的ユーザー層である、都市の中所得以上の知的専門職は、専門ブログの読者層と重なる。アマゾンは<無償情報→広告>モデルではなく、<非広告→有償化>モデルを広めようとしている。読者には「タダほど高いものはありません」、ブロガーには「広告でもない限り、気前よく情報をばら撒くのはやめておカネを取りましょう」ということなのだ。大不況下のノンGoogleモデル。筆者もこれには共感する。
Scribd Store:パブリッシャーが儲かるモデルとその課題
「無線自動全文配信」はいらないから、もっと多い実入りが欲しいという向きには別のソリュションがある。Information Week (5/18) のトーマス・クレーバーン記者の記事が伝える、Scribd.com というテキスト文書の共有サービスだ。この自費出版支援ソリューション(Scribd Store beta) では、著者が設定した販売価格の80%から、トランザクション手数料の25ないし40セント(DRM著作物の場合)を引いた額が発行者に残る。ランダムハウスの電子書籍のロイヤルティ・レートの実勢は実質的に販売価格の12.5%という(10ドルに対して1.25ドル)。Scribdでは、2ドルの本で60%の1.2ドルが入る。Scribdの有料書籍の価格は、ほぼ5~10ドル。ただし、アマゾンやランダムハウスは本のマーケティングに投資するのに対して、こちらはやってくれない。固定読者を持つか、自助努力ないし、他からの協力でマーケティングができれば、非常に魅力的なモデルと言える。
Scribd の弱点は著作権保護問題だ。YouTubeのドキュメント版とも言われる Scribd は、同じように著作物の違法配布で批判されてきた。同社は2007年にテキストマッチング・システムを導入して違法投稿を減らす努力を続けている。ジェアード・フリードマンCTOによれば、このシステムはうまく機能しており、それによってオライリーやロンリープラネットなどの出版社との提携も可能になっている、と強調している。とはいえ、まだアーシュラ・ル・グインのような有名作家の作品が堂々と載っていたりもするようだ。「書店で定価18ドルの本を売るよりもScribdに2ドルで置いたほうが儲かる」という文句は確かに魅力的だ。マッチング・システムが完璧に近くなる(Google の電子ライブラリを使えば可能か!?)ことを期待したい。
ところで、アマゾンのブログサービスだが、同じくInformation Week によると、早速セキュリティ問題が見つかった。Kindle for Blogs の利用手続きは実に簡単で、連絡先と支払いに関する情報をアマゾンに送り、契約内容を確認すれば、Kindl Store を通じてブログを提供することができる。しかしこの手続きの中に、ブログのフィードを提供する人間がコンテンツの所有者であることを確認するメカニズムが入っていなかったことを、ある技術者(EventVue のジョシュ・フレーザー)が発見した。つまり、悪意ある誰かが「なりすまし」て他人の果実を得ることができるものだったのだ。アマゾンも問題を認識しているが、公式コメントは「無許可の著作物配布には精力的に対処する」という以上のものではない。フレーザー氏は、ブログページにメタタグを挿入することを要求するか、Webサーバに認証ファイルを置くなどの対策を推奨している。 (05/19/2009)
参考記事
“Amazon Lets Bloggers Sell Blog Subscriptions On Kindle”, By Thomas Claburn, InformationWeek, 5/14/2009
“Amazon Kindle Publishing For Blogs Vulnerable To Scams“, By Thomas Claburn, InformationWeek, 5/15/2009
“Scribd Opens Online Store For Documents, E-Books”, By Thomas Claburn, InformationWeek, 5/18/2009
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