ボーイング “Dream”liner の悪夢は続く
By Hiroki Kamata | 2009年 6月 26日
ボーイングの次期中型旅客機 B787 Dreamlinerの開発の遅れ(通算で2年) については、本ブログに移行する前に数回書いた(下記参照)。世界最大規模の事業プロジェクトであり、設計も生産方式も、工学的に非常に高度なもの。昨年4月に4回目のスケジュール延期(指揮官も交替)を発表した時にも、さらに悪い予感はしたのだが、6月23日、ついに5度目の延期が発表された。900機近い(史上空前の)受注残を抱えながら、まだ一番機が飛ばない。 2010年1Qという直近の納期はさらに延期され、10年もあやういと思われる。
二兎を追う者が得たもの…900機の受注残と失われた信頼
それにしても、1番機(ANA向け)の最終組立て作業の開始が発表されてわずか1週間。前回の理由は、特殊な「治具」の供給、その前はバグなど。今回は主翼と機体胴体の結合部分の強度不足(強度計算のミス)で新たな部品が必要になったこと、とされている。再度の強度テストが必要になることは言うまでもない。構造力学で不可欠の有限要素法の計算に問題があったようだが、問題をさかのぼれば、炭素繊維という新素材を多用したこと、スケジューリングに余裕のないこと(カンバン方式。しかもグローバルなサプライチェーン)にある。
ボーイングの地元、シアトルの新聞はもはや怒りを隠さない。世界一給料の高い自社(とくにシアトル)の従業員を使いたくないばかりに、世界一複雑な旅客機を、最初から世界一複雑な(机上の)生産管理体制でつくろうとしたのは世界一の間抜けではないか、と言わんばかりだ。たしかにこのプロジェクトは、石橋を壊すまで叩く工学の王道から外れていた。(リスクを限定せず)素材=設計の革新と生産の革新の二兎を追ったのである。それによってエアバス(これもまだ飛んでいないA350)に対する営業的な大勝利を収めたのだから、アイデアとしては最高だった。しかし、サブプライム・ローンやCDSのように、そこには未知の世界をもコントロールするITへの過大な信頼があった。
確かにコンセプトは素晴らしい、しかし失敗の経験をコンピュータのシミュレーションで置き換えるには、あまりに無駄のなさすぎるスケジューリングだった。しかし、市場は世界一のハイテク企業であるボーイングの実力を過信した。その筆頭はボーイング一辺倒の日本の2社である。もはや3ヵ月や半年では済まず、1年は覚悟すべきだろう(それ以上は考えたくないが、あり得ない話ではない)。それで甚大な影響を受けるような事業計画を組んだとすれば、当事者の責任だ。「信じていた」で済まされるなら、責任者は必要でない。エアバスA380をはるかに超える遅延は、結果的にはその革新性に見合ったものだからだ。
幸いにして、現在は燃料費も航空需要も低迷しているので、延期が顧客の離反や訴訟に直結はしないだろう。しかし、このプロジェクトがマーケティングや工学の教科書に載るような教訓を与えるものとなることは間違いない。日本ではいまだに(ボーイングと同社一辺倒の日本企業への遠慮から)この問題の批判的検討がなされていないのは遺憾だ。 (06/25/2009)
- 「ドリームライナー4度目の納期延期」 2008年4月9日 Object-Insiders
- 「787のスケジュール再延期、その重大な意味」 2008年1月17日 Object-Insiders
- 「ボーイング vs. エアバス─PLMのバトル」 2007年9月8日 Object-Insiders
- Boeing again delays initial 787 Dreamliner flight, by Dominic Gates, Seattle Times, 6/23/2009
- Boeing damages credibility with decision to delay first flight of 787 Dreamliner, by John Talton, Seattle Times, 6/23/2009
- Boeing’s Nightmare Liner, By Rich Smith, The Motley Fool, 6/24/2009
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