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「英国は統一ドイツを望まず」:冷戦勝利の苦い裏側

By Hiroki Kamata | 2009年 9月 12日

berlin_wall9月10日と11日付英タイムズ紙は、1989年のベルリンの壁開放直前の英ソ首脳(サッチャーゴルバチョフ)の非公式のやり取りを伝える旧ソ連秘密資料について、マイケル・ビニオン (Michael Binyon)記者などによる一連の記事(巻末参照)を掲載した。それによると、当時の英米仏首脳は一致して壁(ドイツ分断)の維持を望み、ソ連の軍事介入さえ容認(というより期待)して、ゴルバチョフ書記長が慎重に行動するよう説得を試みていた。20年目にして伝えられる真実だ。国際関係専門家にとっては、さして驚きではないのかもしれないが、公式には絶対に聞けない率直な発言が、冷戦終結へのサッチャーの懸念、ゴルバチョフの楽観を示しておもしろい。歴史というものを考えるのによい教材となるだろう。

わが国はドイツ統一を望みません。これは大戦後の国境線の変更につながります。国際秩序全体の安定性を損ない、英国の安全を危険にさらすことになるので、このような変化は容認できないのです。」(サッチャー)
「そんなことになれば、火星に移住したほうがましだ」(ミッテラン

thatcher_612383aサッチャー元首相は、米国のレーガン元大統領とともに「反共の闘士、冷戦の勝者」ということになっている。しかし、どうも彼女自身は「勝利」を望んでいなかったようだ。それどころか、壁の維持のため、英仏で一致してソ連に軍事介入までけしかけていた。東欧民主化を支持して共産党指導者を一掃すれば、民衆はソ連を支持し、壁がなくても体制は維持できる、とゴルバチョフが考えていたためだ。結局パンドラの箱は開けられてしまった。壁の開放→東欧の崩壊→ソ連邦の崩壊(つまり望まない事態)へと、ほとんど一気に進んでしまっただけに、サッチャーの読みの確かさが光る。一見安定した秩序も、微妙な均衡の上に成立しているのだが、それが見えている人間は少ない。たぶんこういうことだ。

英国政府や米国共和党本流はリアリストが多い。反共的言辞とは裏腹に、冷戦の価値を高く評価し、ソ連の東欧支配を認めていた。それが崩壊することで始まる「グローバリゼーション」(の否定的意味)すら予見していたのだろう。興味深いのは、米国(父ブッシュ政権)も英国と同調していたことだ。冷戦の勝利が「米国の一極支配」などでは終わらず、民族主義の復活、国境の流動化、紛争の多発、米国の関与と泥沼化…つまり「無極化」につながることを恐れていた。ポスト冷戦の展開をみると、冷戦時代の政治家の賢明さ(ドイツから見れば底意地の悪さ)が光っている。

なんと、ゴルバチョフの無邪気な理想主義が、軽率にダムの楔を抜いたために、世界は取り返しのつかない激変(市場主義の大勝利→自滅と、国家資本主義中国の勝利)に見舞われたことになる。冷戦的世界で最も利益を得ていた日本もゴルバチョフを恨む権利がありそうだ。外交の世界では、善意ほどコワいということか。結局、サッチャーのとるべき手段は唯一つ。「ゴルビー暗殺」しかなかったのだろう。小説的には、MI6KGBをそそのかし、あるいは共謀して「狂信的なスターリン主義者」による暗殺計画を仕立てる。それを阻止せんとするドイツBND。混乱するCIA…。といったあたり。

なお、本資料は、ゴルバチョフが退任時に持ち出し、財団の管理下に置いた外交交渉や共産党政治局会議の速記録ファイルの中から、作家のパーヴェル・ストロイロフが1000点以上をコピーして英国に持ち出したものとされる。信憑性は否定されていない。 (09/12/2009)

  1. Thatcher, Gorbachev, Bush: read the secret Kremlin records, The Times, 9/10/2009
  2. Thatcher told Gorbachev Britain did not want German reunification, by Michael Binion, The Times 9/11/2009
  3. What Thatcher and Gorbachev really thought when the Berlin Wall came down, by Michael Binyon, The Times  9/11/2009
  4. Militant Democracy, The Times, 9/11/2009

Topics: 現代世界論 | No Comments »

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